参院選を前に静かに進む岸田首相の改憲シフト=人羅格
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夏の参院選は野党陣営の迷走が目立ち、与党優位の構図が強まっている。選挙後の「岸田首相続投」を視野に、憲法改正の動向が焦点となってきている。
野党の現状を物語るドタバタだった。参院選に向け日本維新の会と国民民主党は、いったん合意した京都、静岡選挙区の相互推薦合意を白紙に戻した。ところが5月6日、京都については維新候補を国民が推薦することで合意した。有権者からみれば、何が何やらわからぬ展開であろう。
混乱の背景には、「京都」「山形」の選挙区事情があった。
国民民主の玉木雄一郎代表は今国会、政府の当初予算に賛成するなど、与党と協調する「自公国」路線をけん引する。そんな折、榛葉賀津也幹事長と前原誠司代表代行は、維新との連携に動いた。
選挙協力自体は玉木氏も認めていたようだ。だが、頭越しに「政権交代を実現」という文言入りの文書を合意したのが問題だった。前原氏は岸田政権と距離を置き、維新との連携を優先する。これが、玉木氏の路線と衝突した。
路線以上に榛葉、前原氏を動かした最も大きな動機は、京都選挙区での立憲民主党現職、福山哲郎前幹事長の再選阻止だろう。
京都地盤で同志だった前原、福山両氏は旧民進党の「希望の党」合流問題で、たもとを分かった。さらに榛葉氏は3年前の参院選で、当時の立憲執行部に自身の静岡選挙区で対立候補をぶつけられた遺恨がある。榛葉氏と前原氏は今回、立憲の失速状態を見越し、維新候補を後押しすることで勝負をかけたのである。
野党のドタバタよそに
一方、玉木氏は「反政権」に党が傾斜すると、山形選挙区で自民に対立候補を擁立されかねない事情を抱える。山形で国民は現職の議席死守を目指すが、自民は国会連携の見返り含みで、候補擁立見送りを検討している。維新と国民が接近した際、自民党の遠藤利明選対委員長は「違和感を覚える」とけん制していた。
立憲と共産党の「1人区」共闘も結局、限定的に終わりそうだ。野党が「コップの中」でもめ続けているのだから、全体状況はますます与党優位になる。
そうした中で、参院選後の続投を念頭に、首相が憲法改正にどう臨むかが、早くも焦点となってきた。憲法改正には衆参両院それぞれ3分の2以上による発議が必要だ。与党に維新などを含めた衆院の改憲勢力はこれを大きく上回る。参院は総定数248のうち166が発議に必要だ。非改選の「改憲派」は80人超とみられるため、改選125議席のうち、85議席程度を与党や維新が占めれば3分の2を確保する。与党優位の現状に照らせば、決して非現実的なハードルではなかろう。
ロシアのウクライナ侵攻は改憲を巡る世論に影響している。毎日新聞の世論調査では、9条を改正し自衛隊の存在を明記することに「賛成」は58%で、昨年の51%を上回った。朝日新聞調査で憲法を「変える必要がある」は56%で、昨年の45%から大きく増加、2013年以降で最多だっ…
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週刊エコノミスト
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