資源・エネルギー エネルギー逼迫時代の電力・ガス節約術
《電力・ガス節約術》徹底試算! 今年度の電気料金は過去最高になる=江藤諒
どれだけ上がる?徹底試算 電気料金は今年度過去最高に 都市ガスも3割上昇の高値=江藤諒
電気料金は産業向けが前年度比33%、一般家庭は同14%上昇し、物価全体も押し上げる見通しだ。
電気・ガス料金はこれからどこまで上がるのか。新型コロナウイルス禍からの需要の回復に加え、今年に入ってロシアによるウクライナ侵攻も重なり、原油・天然ガス価格が高騰している。資源の大半を輸入に頼る日本では、原油・天然ガスの市場動向に国内の電気・ガス料金も大きく影響される。さまざまな前提を置いた試算の結果、少なくとも電気料金は2022年度、過去最高の価格となる見込みとなった。
原油の国際的な指標価格である米ニューヨーク市場のWTI原油先物価格は今年3月、1バレル=100ドルを7年8カ月ぶりに突破した。また、天然ガス価格も高騰しており、こうした状況はすでに国内の電気・ガス料金にも反映されている。例えば、平均的な家庭向けで東京電力の今年7月の電気料金は前月比301円上昇の8866円となる見込みで、16年4月の電力小売り完全自由化後で最も高い水準となっている。
ここでは試算の前提として、ドル・円相場の為替レートは、円安の定着を踏まえて1ドル=130.0円と仮定。化石燃料の輸入価格は原油が1バレル=106ドル、液化天然ガス(LNG)は英国熱量単位100万BTU(27立方メートル)=16.3ドル、一般炭(石炭火力用)を1トン=312ドルと想定。これらを踏まえて、22年度の電気料金を試算したものが図1だ。
試算では、22年度の「電灯・電力総合単価」(電気料金全体の平均単価)は、前年度比24.9%上昇の1キロワット時=27.5円となり、過去最高だった1985年度(23.7円)を上回った。このうち、主に工場やオフィス向けの電気料金の平均単価「電力総合単価」は、前年度比32.8%上昇の同25.5円。主に一般家庭向けの平均単価「電灯総合単価」は前年度比14.0%上昇の31.8円で、いずれも過去最高水準となる。
4カ月遅れで反映
大手電力会社の電気料金は「基本料金」「電力量料金」「再生可能エネルギー発電促進賦課金」で構成されている。電力量料金は使用した電力量に「電力量料金単価」と「燃料費調整単価」を乗じて算出する。このうち、現在の原油や天然ガスといった化石燃料の価格高騰が直接反映されるのが燃料費調整単価で、原油とLNG、石炭の輸入価格に応じて決まる(燃料費調整制度)。
化石燃料の輸入価格が電気料金に反映されるまでには制度上、約4カ月(3~5カ月)のタイムラグが生じる。なお、LNG価格は原油価格と連動しており、原油価格の変動から約3カ月遅れて反映される。そのため、ウクライナ侵攻の影響による化石燃料価格の上昇が反映されるのは6月ごろからとなる。ただし、家庭向けでは各電力会社の「基準燃料価格」の50%までが上昇の上限と定められており、無限に上がり続けるわけではない。
現在の化石燃料価格を基にすれば、電力会社(旧一般電気事業者)10社全てがは今年9月時点で、燃料費調整単価の上限に達する見通しで、上限価格が撤廃されない限り、燃料費調整単価は据え置きとなる。また、「再生可能エネルギー発電促進賦課金」単価は、再エネの拡大で毎年上昇しており、21年5月~22年4月の1キロワット時=3.36円から、22年5月~23年4月は同3.45円に上がった。試算ではこれらも加味している。
日本の電気料金は、2度のオイルショックで急騰して85年度にピークをつけたが、以後は継続的に下落していた。しかし、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故が発生した11年度以降は火力発電比率が増加して上昇傾向に転じた。新型コロナウイルス禍で世界的に需要が急減した20年度は、化石燃料輸入価格の大幅下落で電灯・電力総合単価は下がったものの、21年度は再び上昇している。
物価は2.0%上昇
都市ガス料金も大きく上昇する。図2は都市ガス料金を試算したもので、22年度はLNG輸入価格の上昇で前年度比33.9%増の1立方メートル当たり124.4円と、14年度以来の高値となる。都市ガス料金の平均単価である「都市ガス総合単価」は、82年度にピークを付けた後に下落したが、LNG輸入価格の上昇で料金は上昇傾向に転じ、14年度は87年度以来の最高値となっていた。
都市ガス料金は「基本料金」と「従量料金」で構成される。従量料金は「基準単位料金」と「原料費調整単価」にガス使用量を乗じて算出する。原料費調整単価は、電気料金の燃料費調整単価と同じで、LNGと熱量調整用の液化石油ガス(LPG、プロパンガス)の輸入価格の変動分が、約4カ月(3~5カ月)のタイムラグで、都市ガス料金に反映される。
電気代やガス代の上昇が消費者物価指数に与える影響も試算してみた(図3)。その結果、電気代は0.4%、ガス代は0.2%の押し上げ要因となることが分かった。食料品などその他の財も円安による物価上昇圧力が高まり、価格転嫁が進むことで消費者物価指数(総合)は前年度比2.0%上昇。消費税増税のあった97年度、14年度を除けば、バブル期の91年度以来の上昇率となる。
電気や都市ガスなどのエネルギーは、家庭生活や企業の生産活動の必需品であり、料金の値上がりは、企業の規模や家庭の所得に関係なく幅広く影響を与える。特に影響が大きいと見込まれる、子育て世帯への省エネ住宅購入支援や、低所得世帯向けの省エネ機器買い替え支援、中小企業向けの省エネ投資促進支援などが必要となるだろう。
(江藤諒・日本エネルギー経済研究所 主任研究員)