国際・政治東奔政走

参院選前にかすむ立憲民主党の存在感=及川正也

与党との対立軸示せず、野党もばらばら=及川正也

 通常国会最終盤の6月8日、立憲民主党が岸田文雄内閣に対する不信任決議案を衆院に提出した。参院選を7月10日に控えて対決姿勢を鮮明にしようとする戦術だった。だが、同調する動きは社民党や共産党にとどまり、他の野党は「従来の野党像」(国民民主党)、「政治的な茶番劇」(日本維新の会)などと反対に回り、翌9日の採決ではあっさり否決された。参院選を前に野党第1党としての存在感はむしろかすむ皮肉な結果に終わった。立憲の求心力はなぜそがれたのだろうか。

「一貫して無為無策であり、『何もしない』ことを安全運転と呼んではばからない厚顔無恥な政権がこれ以上続くのは、日本のためにならない」。不信任決議案では、岸田内閣をこう酷評した。とくに経済政策では「『新しい資本主義』は空虚で、賃金所得の向上は諦め、政府が投資信託のコマーシャルのようなことを言い始めている。どれだけの人が乏しい生活費の中から投資にお金を回す余力があるのか、岸田内閣は人の苦しみに『共感する力』はほとんど持ち合わせていない」と指摘した。

消費税5%が目立つ程度

 批判が的外れなわけではない。問題は、立憲が国民の痛みに共感し、克服できる政策を立案し、実行に移す力を示せるかどうかだ。そこに疑問符がつく。

 立憲が発表した参院選の公約が、それを示している。例えば、キャッチフレーズの「生活安全保障」だ。「暮らしの安心」をキーワードに「生活者目線」をうたう個別の政策が並ぶ。消費者重視はリベラル勢力の生命線だが、与党と目立った違いといえば、時限的な消費税の5%への減税措置などで、大きなビジョンが見えない。

 折しも、岸田政権が当初訴えていた「分配強化」の理念を弱め、「成長重視」の経済戦略を発表した。「アベノミクス」は企業側の富を増やすことで労働者側も恩恵を受ける「トリクルダウン」を期待したものだったが、この手法は本家の米国ですら十分な効果をあげてこなかった。にもかかわらず、これを踏襲するというのだから、反撃のチャンスのはずだった。

 米国ではバイデン政権が公正を基盤として中間層の協力を促し成長につなげる「ミドルアウト」の手法にチャレンジしている。立憲は中期目標で「公平な税制と再分配」により格差是正を目指すとしていた。だが、「対立軸になり得る理念」(立憲幹部)が公約に明記されなかったのは理解に苦しむ。

 もう一つは、安全保障政策だ。ウクライナ情勢を受け、「抑止力と対処能力強化を重視」する防衛力整備を強調した「着実な安全保障」を掲げるとともに、野党共同の原点だった安全保障法制の「違憲部分の廃止」の優先順位を下げた。泉健太代表は防衛費の増額も許容しており、自民との対立軸はかえっておぼろげになった。

 党内では、経済政策、安全保障政策ともに中道派からリベラル派まで立ち位置は幅広い。今回、中道寄りになったのは…

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週刊エコノミスト

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