国際・政治東奔政走

首相の参院選“目立たない”戦術を脅かす物価高と円安の荒波=人羅格

参院決算委員会で岸田首相は「生活に不安を与えている」と認めざるを得なかった(6月13日)
参院決算委員会で岸田首相は「生活に不安を与えている」と認めざるを得なかった(6月13日)

 6月22日に公示された参院選は与党優位の観測が広がる中の舌戦だけに、自民党は楽観ムードの上滑りを警戒している。とりわけ、与党が神経をとがらせているのが、暮らしを圧迫する物価高や円安加速が投票に与える影響だ。岸田内閣が「アベノミクス」路線に傾斜していることと、物価高・円安対策の矛盾が次第に浮かびつつある。

 岸田文雄首相にとっては冷や汗ものの逃げ切り、そして国会の閉幕だったかもしれない。

 通常国会最後の首相質疑の場となった6月13日、参院決算委員会の主役は「物価高・円安」だった。首相は食品価格の上昇率を巡り「わが国は相対的に低い」と強調した。ただし、「生活に影響と不安を与えている」と認めざるを得なかった。

黒田総裁発言の後遺症

 黒田東彦日銀総裁は6月6日、「家計の値上げ許容度も高まってきている」と発言し、撤回に追い込まれた。この騒動を巡る政権の神経質ぶりがうかがえた。

「かつてないほどの与党順風」(閣僚経験者)と目される中で突入した参院選である。何といっても、与野党対決の大勢を決する「1人区」で野党候補の一本化が、32のうち11にとどまったことは大きい。

 日本維新の会と国民民主党は、立憲民主党が提出した内閣不信任決議案にあえて反対票を投じた。これは、参院選で野党の主眼が「与党からの票の争奪」よりも「政権批判票の争奪合戦」にあることを浮き彫りにした。

 内閣支持率も堅調だ。公示を控えたNHK世論調査で59%と同内閣で最高を記録した。ロシアのウクライナ侵攻は安全保障を巡る国民意識を刺激し、選挙で与党に不利な要因とはならない。最大の懸念材料だった新型コロナウイルス感染も、小康状態にある。

 首相はひたすら、国会で安全運転に努めてきた。答弁で「検討中」を繰り返したのも、失言や失点回避のためだろう。野党の分断などを勘案すれば、「逆風」さえ生まなければ乗り切れる、という計算だ。選挙対策に限定すれば、的外れではない戦術である。

 それだけに、黒田氏発言はそんな首相の「目立たない努力」を台無しにするおそれがあった。

「許容度」という表現は日銀の用意したペーパーにあり、黒田氏も気にとめなかったようだ。マクロ的観点からの表現として擁護する向きもあるが、普通に読めば「家計が値上げを受け入れつつある」という趣旨だ。発言を撤回したのは、与党内からの反発も強かったためだろう。

 参院選で自民党が大敗する時は「消費税」(1989年、宇野宗佑内閣)、「税制改革と恒久減税」(98年、橋本龍太郎内閣)、「消えた年金」(2007年、第1次安倍晋三内閣)といったように、シングルイシュー(単一の争点)で逆風が吹くのが定番だ。過去の教訓が首相の脳裏をよぎったに違いない。

 ただし「物価高問題」の根は深い。日本の場合、ウクライナ有事に伴う原油・穀物高騰に加えて、円安問題も絡んでいるためだ。

 アベノミクス推進役として異次元…

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