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国際・政治 東奔政走

防衛次官交代で、安倍氏は本当に“激怒”したのか=中田卓二

官邸主導の人事で参院選後は政治力学が変わる可能性がある(参院選の遊説で支持者らと拳でタッチする岸田文雄首相)
官邸主導の人事で参院選後は政治力学が変わる可能性がある(参院選の遊説で支持者らと拳でタッチする岸田文雄首相)

 防衛省の事務次官人事が波紋を広げている。岸田文雄首相が安倍晋三元首相の要請を断って交代させたという。事実なら、政権内の力学が参院選後に変わる可能性がある。本当にそうだろうか。

 概略は次の通りだ。

 島田和久事務次官は第2次安倍政権で首相秘書官を6年半務め、2020年8月に次官に就任した。間もなく2年になるため慣例では交代だが、年末の国家安全保障戦略など3文書改定を控え、続投が有力視されていた。

 ところが、首相官邸は交代を決断した。それを知った安倍氏が激怒し、6月16日に衆院議員会館の自身の事務所で首相に直談判したが、首相を翻意させるには至らなかった。岸信夫防衛相(安倍氏の実弟)は翌17日の記者会見で、島田氏の7月1日付での退任を発表した。

防衛費増額の旗振り役

 ロシアによるウクライナ侵攻を受け、安倍氏は、防衛費を5年以内に国内総生産(GDP)比2%以上に引き上げるよう繰り返し主張してきた。首相が5月、バイデン米大統領との会談で「相当な増額」を約束すると、安倍氏はすぐさま「6兆円後半という意味ではないか」と表明。22年度当初予算から1兆円超の増額に期待を示した。政府側で増額の旗振り役だったのが、安倍氏の信頼が厚い島田氏だ。

 政府は6月7日に閣議決定した「骨太の方針」で、23年度の防衛費について「新たな中期防衛力整備計画にかかる議論を経て結論を得る必要があることから予算編成過程において検討し、必要な措置を講ずる」と記述した。これによって、夏の概算要求基準(シーリング)の対象にせず、新中期防の策定作業と並行して予算を検討することが可能になった。

 自民党の参院選公約はこうだ。「NATO(北大西洋条約機構)諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、真に必要な防衛関係費を積み上げ、来年度から5年以内に、防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す」。「念頭に」とワンクッション置き、いかようにも解釈できる書きぶりにしている。

 首相は参院選への影響を意識し、具体的な増額幅には言及していない。日本記者クラブが主催した6月21日の党首討論会では「内容と予算と財源を3点セットで考える。まず数字ありきではおかしな議論になる」と強調した。

 政府・自民党には、島田氏の交代を骨太の方針と結び付け、首相による「意趣返し」と解説する向きがある。それに沿って書いたと思われる記事も少なくない。しかし、意趣返しだとしたら、首相は本音では防衛費増額に乗り気でなく、「相当な増額」はポーズだったということにならないか。それを示唆する話は漏れてこない。

 制度上、事務次官など各府省の幹部人事は内閣人事局が一元的に管理している。ただ、ある省の次官経験者は「普通は官邸と調整しながら2~3カ月前から準備する。波乱はほとんどない」と指摘、島田氏の続投方針は突然覆ったわけではないと推測する。

 首相は、安倍…

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週刊エコノミスト

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