「黄金の2年」を前に防衛次官交代劇で打った「脱安倍」の布石=平田崇浩
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参院選を乗り切った岸田文雄首相は、本当に「黄金の3年」を手にできるのだろうか。衆院議員の残る任期は3年。首相が衆院解散を行わない限り、大きな国政選挙に政権の体力をそがれることのない3年間が眼前に広がる。
ただし、岸田首相には自民党総裁任期というもう一つの時間的制約が立ちはだかる。残る総裁任期は2024年9月までの2年余り。党内の「反岸田」の動きを抑えるため、岸田首相が総裁選時期に合わせて衆院解散カードを切るとの見方が早くもささやかれる。
安倍政権「負の遺産」3点セット
そう考えると、岸田首相が当面手に入れたのは「黄金の2年」。首相が2年後の衆院選と総裁選を乗り切るために打った一手が防衛事務次官の交代人事だ。知米派の政府関係者は「安倍政権から引き継いだ負の遺産3点セットを一気に処理しようということだろう」との期待を込めた見立てを語る。
3点セットとは、安倍晋三元首相の在任中に導入が進められた(1)陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」、(2)敵ミサイルの射程圏外から敵の艦船などを攻撃するスタンドオフミサイルの国産開発、(3)18(平成30)年度から建造の始まった新型護衛艦(30FFM)──を指す。安倍政権下でゆがめられた防衛装備体系を象徴する案件として防衛省・自衛隊内の一部で問題視される。
(1)のイージス・アショアは、北朝鮮の核・ミサイルに対抗する切り札としていったん導入が決まったが、配備先の選定などをめぐる混乱を理由に断念。契約済みだったロッキード・マーチン社のレーダーシステムは解約せず、海上配備のイージス搭載艦に転用する方針を決めたのは菅義偉政権だが、レーダーシステムの機種選定時から不透明さがつきまとう。
米海軍がレイセオン・テクノロジーズ社の新レーダー導入を進める中、日本政府が選定したロッキード製レーダーは、大陸間弾道ミサイル探知用のシステムを元にした開発途上のカタログ商品。北朝鮮から飛来する中距離ミサイルの探知にそぐうのかを実機で検証することなく、防衛省が選定を急いだ経緯に対しては「トランプ大統領(当時)からの武器爆買い要求に焦り、米海軍が選定を避けた不良品をつかまされたのでは」(自衛隊OB)との疑念もささやかれる。
(2)のスタンドオフミサイルは、安倍氏が旗を振ってきた「敵基地攻撃能力」保有実現の暁にはその主力装備に格上げされる。ところが、防衛省が研究試作を行ってきた新型巡航ミサイル(新SSM)に突然、待ったがかかった。
代わって開発が進められることになったのが、陸上自衛隊に12年度に導入された12式地対艦誘導弾(12SSM)の能力向上型。艦船の垂直発射装置(VLS)から発射でき、目標を正確に自動探知する画像センサーや、敵の攻撃を回避するターボファンエンジンを備える新SSMこそ、スタンドオフミサイルの本命と目されてきたにもかかわらず、…
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週刊エコノミスト
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