国際・政治東奔政走

外交に意欲見せる岸田首相 アジアの安定に役割果たす好機=及川正也

G7首脳会談に出席した岸田文雄首相。左はドイツのオラフ・ショルツ首相、右はインドネシアのジョコ・ウィドド大統領(6月27日、独エルマウで)Bloomberg
G7首脳会談に出席した岸田文雄首相。左はドイツのオラフ・ショルツ首相、右はインドネシアのジョコ・ウィドド大統領(6月27日、独エルマウで)Bloomberg

 安倍晋三元首相襲撃事件の衝撃が残る永田町では、参院選で勝利した岸田文雄首相の今後の政権運営に関心が集まっている。インフレ対策、ロシアのウクライナ侵攻、新型コロナウイルス感染症対策を喫緊の課題と位置付けるが、得意の外交にも意欲を示す。日米同盟を基軸に日中関係をどう改善するかに腐心しているという。

 意欲は相次ぐ異例の外遊に表れていた。通常国会最終盤にもかかわらず、6月10~11日にアジア安全保障会議出席のためシンガポールに弾丸出張。参院選公示後の同26~30日にはドイツでの主要7カ国(G7)首脳会議とスペインでの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席した。

 シンガポールでの講演では「『平和のための岸田ビジョン』を進め、日本の役割を強化する」と述べ、「自由で開かれたインド太平洋」の実行計画を来春までに示すと表明。G7やNATOの会議ではウクライナ支援や食料危機に積極的に取り組むとともに、インド太平洋の安定の重要性を訴えた。

米中間選挙が波乱要因

 精力的な行動を最も評価したのは米国だ。岸田氏が帰国した同30日、在日米大使館は「岸田首相は、大西洋両岸とインド太平洋の同盟国が自由を守るために結束していることを示した」と評価する声明を発表。外務省関係者によると、エマニュエル駐日米大使は日本の当局者らに、ロシアと中国の脅威に対抗するために「欧州とアジアの同盟国を団結させることが必要だとバイデン米政権は考えている」と話している。その役割を岸田氏は率先して果たしているというわけだ。「Trans-Atlantic(大西洋両岸)とIndo-Pacific(インド太平洋)を合体した『TAIP』が新たな国際秩序のキーワードだ」とある外交筋は言う。

 こうした中、日本政府が懸念するのが米国政治の行方だ。「11月の中間選挙次第では米政局が混乱する」というのが共通認識だ。与党・民主党の苦戦が伝えられ、上下両院とも少数派に転じる可能性がある。共和党では影響力を今も発揮するトランプ前大統領の支援を受ける有力候補らは「米国第一」を唱え、ウクライナ紛争に関わるべきではないと訴えている。トランプ氏は2024年大統領出馬の準備を進めているとされる。米国の孤立主義が復活すれば世界は再び混迷するのは必至だ。

 一方の中国。岸田氏は従来から「建設的な関係を維持し、協力すべき課題では協力する」という立場で、習近平国家主席との会談に前向きだ。新型コロナウイルス感染拡大や米中対立の激化で日中関係も悪化したが、昨年秋の岸田政権発足以降、関係改善の機会を水面下でうかがっていた。

 日中外交筋によれば、昨年12月に国家安全保障局の秋葉剛男局長と中国外交トップの楊潔篪(ようけつち)共産党政治局員が中国・青島で極秘会談する計画が進んだが、頓挫した。今年5月には、中国の李克強首相と日本企業とのオンライン会議が設定されたが、直前に…

残り910文字(全文2110文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事