高騰する植物油、「構造変化の兆し」と食用油メーカー=荒木涼子(編集部)
食用油が値上がり
ウクライナを震源に、食用油でドミノ倒しのように価格高騰が連鎖している。>>>特集「止まらないインフレ 資源ショック」はこちら
企業が原料費を価格転嫁へ
需給逼迫は一過性ではない=荒木涼子
食用油の値上げが止まらない──。ロシアによるウクライナへの侵攻が、需要増や天候不良による収穫減などの値上げ要因に拍車をかけた。コストカットなどの努力を重ねてきた企業側も、価格転嫁を抑えきれないレベルにきている。
国連食糧農業機関(FAO)が出す世界食料価格指数は3月、2カ月連続で過去最高を記録した。指数は肉類や穀物など主要5グループの国際取引価格から、2014〜16年平均を100として算出したものだ。中でも植物油グループ(248.6ポイント、前月比46.9ポイント増)が特に押し上げた。
植物油には、ひまわり油、パーム油、大豆油、なたね油などの食用油が含まれる。パーム油は中国を中心とした新興国の需要増や主な生産国(インドネシア、マレーシア)の供給逼迫(ひっぱく)▽大豆油は南米の干ばつによる生産不調や米国でのバイオ燃料への需要拡大▽なたね油はカナダの天候不順による大幅減産──などで既に価格が上昇圧力を受けていた。
そこに侵攻で世界最大の生産地だったウクライナのひまわり油の輸出量が大きく減少する見通しとなり、欧州を中心に代替のオリーブ油の需要が増えるなど、ドミノ倒しのように世界的に各種食用油が高騰していった形だ。
ウクライナは08/09年度以来、世界のひまわり油の3分の1を生産し、輸出量は半分近くを占めていた。普段は4〜5月に種をまき、9月に収穫が始まる。生産は主に国の東部や東南部に集中する。
このため米農務省は、侵攻の影響で22/23年度の生産量は21%、輸出量は35%、それぞれ大幅に減少すると予測。ひまわり油は世界の全植物油供給の1割を占めていただけに、ウクライナ産の減少の影響は無視できない(図)。
資源価格の動向に詳しい丸紅経済研究所の村井美恵・シニアアナリストは「ウクライナ危機でさまざまなものの取引価格が上がったことも確かだが、天候不順など以前から上がる素地はあった。価格というものは十分な供給量があれば多少の供給減少にはあまり反応しないが、需給が逼迫しているときに供給危機が起こると一気に跳ね上がる性質を持つ」と解説する。
コスト高にあえぐ大手3社
食用油の世界的な高騰は、日本の食卓にも影響を及ぼしている。
食用油大手日清オイリオグループは5月、原材料費の高騰を受け、一部の製品を、7月から値上げすると発表した。同社は「生産量の大幅な拡大が見込めないなか、食用油原料の需給逼迫(取引価格の高止まり)は、一過性ではなく、構造的な変化の兆しとなっている」としている。
J─オイルミルズや昭和産業も相次いで値上げを発表。大手3社の主要製品の値上げは21年以降6回目となる。J─オイルミルズの水本充希・製油統括部長は「(コストカットの)努力を尽くしてきた。これからも続けていきたい」と話す。円安・ドル高の急速な進行も影響し、製油業のコスト環境は過去にない厳しい状況が続く。そんな中でも安定供給や品質が保たれているのは企業努力のおかげだ。食用油は食品加工に欠かせず、使われていない食品の方が少ない。ウクライナ問題が長引けば、多くの加工食品がさらに高騰する可能性もある。
(荒木涼子・編集部)