国際・政治

日露首脳会談で中露接近の阻止図った=畔蒜泰助

2016年12月、山口県長門市で会談した際の安倍晋三首相(右、当時)とロシアのウラジーミル・プーチン大統領(代表撮影)
2016年12月、山口県長門市で会談した際の安倍晋三首相(右、当時)とロシアのウラジーミル・プーチン大統領(代表撮影)

対露外交の戦略性という遺産=畔蒜泰助

 米トランプ政権下で米中の大国間競争が本格化するのに先駆けて、「自由で開かれたインド太平洋」という戦略構想をいち早く掲げ、日米豪印4カ国による協力枠組み「クアッド」の創設を主導するなど、安倍晋三元首相による地球儀を見渡した戦略外交は、今日に至るまで国内外で高い評価を受けている。

 そんな中、安倍外交の失敗例の一つとして挙げられるのが対ロシア外交である。

 確かに首相在任中、プーチン大統領と通算27回もの首脳外交を重ね、2014年のウクライナ危機の際にはロシアに名目上の経済制裁を科すにとどめ、18年11月のシンガポールでの首脳会談では従来の4島から2島による領土問題の解決と平和条約の締結へと事実上、かじを切ったにもかかわらず、道半ばで終わったのは事実である。だが、筆者はやや異なる評価をしている。

念頭に対中国

 14年のウクライナ危機の際、安倍政権がロシアに名目上の経済制裁を科すにとどめたのには二つの理由があった。

 一つは本格化しつつあった日露平和条約交渉を継続すること。もう一つは14年以降、米国や欧州から経済制裁を受けるロシアが中国へ過度に接近するのを阻止することだった。つまり、安倍政権の積極的な対ロシア外交には領土問題の解決と平和条約の締結という2国間外交の枠に収まらない戦略性が組み込まれていた。

 安倍政権の対ロシア外交の遺産として評価すべきはこの戦略性である。

 平和条約交渉については、すでに安倍政権末期には袋小路に入ってしまっていた。それでも、筆者が政府関係者との意見交換などからうかがい知る限り、今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻という事態が発生しなければ、岸田政権も中露の過度な接近を回避すべく、平和条約交渉の継続という名の下で、長期戦の構えでロシアへの関与政策を継続していたと思われる。

 それでも今回、岸田政権は他の主要7カ国(G7)と共にロシアへの本格的な経済制裁に踏み切ったのは、もう一つの中国問題、すなわち、今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻を失敗させることで、近い将来、起こり得る中国による台湾への軍事侵攻を思いとどまらせる、との意図を優先したからであろう。

 その結果、プーチン政権は日本を非友好国のリストに加え、平和条約交渉の停止を通告するなど、日露関係は劇的に悪化する一方、ロシアは中国と経済面のみならず、戦略面においても一層関係を深めていく可能性が高い。

 今後、中露接近への対処という課題は岸田政権に重くのし掛かることになるだろう。

(畔蒜泰助・笹川平和財団主任研究員)

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