黒田総裁が説明を怠ったインフレと賃金の「リアル」=藻谷俊介
所得増で「吸収可能」なインフレ=藻谷俊介
景気の先行きをめぐり、市場では今なお神経質な展開が続いている。こんな時こそデータのより精緻な分析が必要だ。
前回まで述べてきたように、筆者は統計のリアルタイム伸び率という、人から「マニアック」とも呼ばれる分析手法を使っている。
慣習的に用いられている前年同月比伸び率は、要は過去12カ月の累積伸び率である。例えば現状のインフレ率でいえば、昨年春からの供給制約型インフレも含めたインフレをカウントしてしまうことになり、足元の変化だけを取り出すことができない。メリットは、誰でも即座に計算できるという点だけだ。
これに対し、筆者が用いるリアルタイム伸び率は、系列から季節性を取り除いた上で、直近3カ月間の平均伸び率を年率換算して計算するので、1年前の出来事は影響してこない。
前回のコラムでは、この手法を使って計算したリアルタイム・インフレ率が、既にピークアウトしていることをお伝えしたが、日本だけでなく米国を含むほとんどの国で、消費者物価指数のリアルタイム・インフレ率が低下し始めている。これは、最も川上にある資源価格のリアルタイム・インフレ率がとうに低下していたことを反映している。遅行する前年同月比で見てインフレ率が時々増えたとしても、もはやおびえる必要はないのである。
さて、インフレ率のめどは立ったとして、賃金はどうなのか。実はリアルタイムで見れば賃金の伸び率も結構大きくなっている。
人手不足で賃金上昇
背景にあるのは堅調な雇用の回復である。図1の常用雇用指数(従業員5人以上の企業が雇用している人数)を見ると、線形が反り返って上昇しており、リアルタイムの伸び率は年率で2%近い。新型コロナウイルスの致死率が、ワクチンや飲み薬によってほぼインフルエンザ…
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週刊エコノミスト
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