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⑲外貨建て保険や変額保険でも資産を増やせるの?

「外貨建て保険」ってよく聞くけど…
「外貨建て保険」ってよく聞くけど…

 本連載において、資産形成の色々な手段を取り上げてきましたが、今回取り上げる「保険」がいよいよラストです。「保険」の中でも、払い込んだ保険料をドルなど外貨で運用する「外貨建て保険」と、保険料を株式や債券などで運用する「変額保険」について、メリットとデメリットを解説します。

外貨建て保険のメリット・デメリット

 外貨建て保険とは、払い込んだ保険料がドルや豪ドルといった外貨で運用され、万が一のときの保険金や解約返戻金も、外貨で受け取る保険です。主なメリットは、日本の保険と比べて保険料の一部を運用する時の予定利率が高いため、同じ死亡保障を得る場合の保険料が低くなることです。多くの外貨建て保険には、1.5%や2.5%といった最低保証利率が設定されているのも特徴です。

 一方デメリットは、円貨での保険料や保険金の金額にブレが生じることです。国内の保険では、毎月支払う保険料や受け取る保険金、解約返戻金の金額は、契約当初から決まっており原則変わりません。しかし外貨建て保険では、円と外貨の交換時の為替レートによって、払い込む金額や受け取る金額が変わります。1ドル130円超と20数年ぶりの円安水準となった今、1ドル100円の頃に外貨建て保険を月払いで契約した人は、毎月の保険料が1.3倍以上高くなっており、家計に大打撃を受けているのではないでしょうか。

 また、死亡保険金を受け取る時に円高だと想定より保険金が少なくなることも。場合によっては、いくら外貨を増やすことができても、円貨では元本割れが生じることもあり得ます。また、円建ての保険にはない「為替手数料」というコストがかかるのも、デメリットと言えるでしょう。

 こうしたデメリットを理解せずに契約した人も多く、契約後の苦情発生率は減ってはいるものの、未だなくならないのが現状です。

外貨建て保険で資産形成しても良い人、とは?

 さまざまなデメリットはありますが、外貨建て保険で資産形成しても良い人もいます。たとえば以下のような人です。

① 保険金や解約返戻金を外貨で受け取って良い人

 外貨建て保険の一番のデメリットは、保険金や解約返戻金にある為替リスクですので、このリスクを排除できる人は、外貨建て保険を選ぶ余地もあるでしょう。

 外貨建て保険には、外貨のまま受け取ることを選択できるものもあります。そういった保険であれば、受け取りのタイミングで円安であれば円で受け取り、円高の場合は外貨のまま受け取るなど、フレキシブルに対応できます。たとえば、将来子どもが留学する可能性がある人が教育費として積み立てたり、老後に海外移住を計画している人がそのための資金として積み立てたりする場合が該当するでしょう。

 もちろん、一旦外貨で受け取っておいて、円安になったタイミングで円貨に交換することも可能です。ただし、その際は為替手数料がかかります。

② 比較的円高時に一時払で保険料を払い込める人

 契約当初に保険料を一時払で払えば、その後払込期間中の保険料の変動がないため、家計は安定します。しかし、「比較的」とは書きましたが、いつと比べて円高と捉えるかはあくまで契約者の自己判断。受け取る時期が契約時より円高にならない保証はありません。

変額保険のメリット・デメリット

 次に変額保険を見ていきましょう。変額保険とは、保険料のうち手数料や諸費用を差し引いた金額を、保険会社が特別勘定で運用し、その実績に応じて保険金や解約返戻金の額が変わる保険です。運用する投資商品は、保険会社が指定しているものの中から、投資割合も含めて、契約者が選定します。一般の投資商品と異なる点は、死亡保障が付いていること。円建てだけでなく、外貨建ての変額保険も販売されています。

 変額保険のメリットは、運用がうまくいけば、一般の貯蓄型保険よりも受け取る保険金額や解約返戻金が多くなること。死亡保険金については、基本保険金額が最低保証されています。

 一方デメリットは、解約返戻金や満期保険金について、運用状況によっては元本割れの可能性があることと、契約後しばらくは中途解約すると損をしてしまうことです。また、死亡保障が付くため、運用と保障両方にコストがかかり、その分、同様の運用方針の投資信託を積み立てた場合より、投資効率が落ちます。一般の保険よりも仕組みが複雑でわかりづらいこともデメリットです。

変額保険で資産形成しても良い人

 さて、変額保険には、保険だからこそ得られるメリットがあります。たとえば、生命保険料控除を受けられる、相続時にかかる相続税の計算上、死亡保険金から一定の非課税枠を控除できる、といったものです。ですので、死亡保障を必要としている人にとっては、変額保険は選択肢の一つとも言えるでしょう。一定の死亡保障が保証されている上に、もし運用状況が良ければ増やすことができるからです。ただし、死亡保障を得るのであれば、保険金を増やすことはできませんが、掛け捨ての定期保険が最も合理的です。その方が支払う保険料はかなり抑えられますので、良く比べて考えましょう。

 すでに必要な死亡保障を得ている人であれば、変額保険で増やすのではなく、同様の運用方針の投資信託を、自分で購入する方が、コストを抑えられるためずっと効率的です。その場合は、運用益が非課税になるNISAや確定拠出年金などを活用するのがおすすめ。どうしても自分で証券会社の口座を作ったり銘柄を選んだりするのが面倒な人などは、変額保険も一考の余地があるかも知れませんが、上記のデメリットを理解した上で、検討すると良いでしょう。

メリットとデメリットを知っておこう
メリットとデメリットを知っておこう

保険はあくまでも「大変な事態のための備え」

 将来のために資産形成を考える時に大切なことは、できるだけコストを抑えることです。保険を活用して資産形成をすると、どうしても「保障」に関するコストがかかります。その分、資産形成にまわせる金額は少なくなるため、あまりおすすめできません。しかし、保険ショップに資産形成の相談に行けば、当然、保険商品をすすめられます。保険商品の中から少しでも増やせる可能性があるものを選ぼう、と考えるため、外貨建て保険や変額保険を契約する人もいるのでしょう。

 世の中には、預金や投資商品、国の非課税制度などもありますので、保険以外の手段も含めて検討したいもの。保険はあくまで「手持ちのお金では不足する大変な事態に経済的に備える」ものです。資産形成とは切り分けて考え、それでも保険を活用したいと思う理由があれば、保険を活用した資産形成を検討しても良いと思います。

(ライフヴェーラ代表/みらい女性倶楽部 鈴木さや子)

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