⑱資産形成の手段としてFXとか仮想通貨ってアリなの?
ロシアのウクライナ侵攻や新型コロナウイルス禍などを背景に、世界的に物価上昇が続いています。記録的なインフレを抑えるため、米国では約27年半ぶりとなる0・75%の大幅利上げを決めましたが、一方で日銀の黒田総裁は、引き締めは景気の下押し圧力になるとして金融緩和継続を強調。日米の金利差が広がることによる「円安ドル高」の加速が懸念されています。エネルギー価格の高騰と、円安に伴う輸入品の値上がり、このダブルパンチによって、身近な食料品や日用品の価格は上がる一方です。毎日、ため息をついている人がほとんどではないでしょうか。
このような状況下で、これまで投資を敬遠していた人からも「預貯金だけの資産形成ではまずいですか」と質問されることが増えました。中には、FXや仮想通貨に興味を持つ人もいるようです。でも、長期的な資産形成にFXや仮想通貨は向いていません。今回は、その理由をお伝えします。
FXは為替レートを使った投機手段
FXで得られる主な利益は、2カ国間の通貨価値の差を利用して得られる「為替差益」です。たとえば1ドル100円の時に100ドル買い、その後1ドル130円になってから売れば、「(130-100)×100ドル=3000円」の為替差益を得られます(手数料等は考慮していません)。一方、もし1ドル70円になって売却したら、3000円の損となります。
投資初心者の人が、FXを「やってみようかな」と思ってしまう理由の一つに、実際に持っているお金の25倍まで取引できる「レバレッジ」という仕組みがあります。手元資金が少ない人でも、一気に稼げると感じてしまうのです。
手元に1万円しかなくても25万円もの大金を売り買いの資金として投じることが可能、というわけですが、利益を25倍まで大きくできる代わりに、損も25倍大きくなるのがFXです。レバレッジを効かせすぎると、為替の急落時などには取引資金がなくなってしまうこともあり得ます。
また、株式投資であれば、今後価値が上がりそうな企業に投資をすることで、長期的に資産を育てていけますが、2カ国通貨価値の「差」によって利益を得るFXは、値動きを予想して、短期的に売り買いを繰り返す必要があります。資産を育てるというより、「小さな損」と「大きな利益」で、資産を積み上げるイメージが近いのです。その点で、FXは資産が増える機会に投じる「投機」手段にあたり、長期的な資産形成には向いていないと言えるでしょう。
2カ国間の金利差を受け取る「スワップポイント狙い」とは?
FXによって得られる利益には、為替差益以外に、2カ国間の金利差調整によって発生する「スワップポイント」と呼ばれる利益があります。これは、たとえば日本よりも金利が高い外貨を買って保有している間、毎日受け取ることができる利息のようなもの。スワップポイント狙いでFX取引をしている人もいます。とはいえ、取引を終える時のレートによっては、得られたスワップポイントよりも損が膨らんでいることもあり得るため、常に為替の値動きを注視していなければいけません。
「レバレッジ1倍」なら外貨預金よりコスト安
為替を活用した投資手段には外貨預金もあります。為替の値動きが同じだった場合、FXで外貨を買う時のレバレッジが1倍であれば、為替差益、差損は外貨預金と変わりません。それではどちらの手段を選択するのが良いのでしょうか。主な違いを見てみましょう。
両者の違いの一つは、為替差益を得られるチャンスが、外貨預金は「円安に動いたときのみ」であるのに対し、FXは「円安・円高、両局面」であることです。これは、FXが「売り」から取引をスタートして、「外貨を安く売って高く買い戻す」ことができるから。たとえば、1ドル110円の時に売り、1ドル100円になった時に買うことで、1ドル10円の利益を得られるのです。短期的に値動きを予想するFXならではの仕組みと言えますね。
初心者がFXに手を出すなら「なくなっても問題ない資金」で
長期的な資産形成に向かないFXですが、もちろんコンスタントに稼いでいる人もいるでしょう。でもそれは一握りです。そうした人は、損を最小限に抑えるために、きちんと勉強した上で、レバレッジをかけ過ぎず損切りを徹底するなど、ルールを徹底して守っています。始めてみたい人は、まずは、なくなっても問題ない資金でチャレンジしてみてくださいね。
暗号資産(仮想通貨)は価値の上下が激しく不安定
次に、暗号資産(仮想通貨)について見ていきましょう。
最初の暗号資産(※)であるビットコインが登場して13年。ビットコインの最初の取引はピザ2枚を1万BTCで交換したと言われていますが、その後じわじわと価値が上がり、2017年には1BTC=2,400ドル程度だったものが、12月には約19,600ドルにまで高騰。「億り人」という言葉がメディアを賑わしたのを覚えている人もいるでしょう。
ところが翌2018年には1年間で一気に5分の1以上下落し、話題に乗って買った人が大損した、なんて話もありました。その後も乱高下しながら上昇し、2021年には1BTC=64,000ドル超を記録。しかし2022年6月現在、19,000ドルほどに落ち込んでいます。
このような極端な価格変動は、ビットコインに限った話ではなく、どの暗号資産にも言えることです。変動があるのは株式投資も同じですが、暗号資産の変動には限度がなく、その原因が株式よりわかりづらいのが難点です。企業活動に伴い成長性がある株式と違い、投機家の思惑でデータの価値が決まるビットコインそのものには、成長性がありません。よって、暗号資産もFXと同様、長期的な資産形成にはおすすめできません。どうしても法定通貨へのリスクヘッジをしておきたい人は、なくなっても問題のない少額の資金で始めるくらいにしておきましょう。
(※)資金決済法の改正(令和2年5月1日施行)により、法令上、「仮想通貨」は「暗号資産」へ呼称変更されています。
長期的な資産形成には「一攫千金」の手段は合わない
FXと仮想通貨に共通するワードは「一攫千金」だと筆者は感じます。もちろん、きちんと学び、ルールを決めてリスクをコントロールできる人などそうでない人もいるでしょう。しかし、こと投資初心者は、「短期で大きく稼げて手っ取り早い」と興味を持ってしまうのかも知れません。
手っ取り早く資産形成できる手段はありません。稼ぎ力と貯金力のアップ、そして毎月の積立投資(主に投資信託)が基本です。コツコツじっくり資産を育てていきましょう。
(ライフヴェーラ代表/みらい女性倶楽部 鈴木さや子)