教養・歴史書評

まるでSF? 一見荒唐無稽だが、現実に即した未来シナリオを提示=評者・後藤康雄

『テクノソーシャリズムの世紀 格差、AI、気候変動がもたらす新世界の秩序』 評者・後藤康雄

著者 ブレット・キング(未来学者) リチャード・ペティ(政府政策アドバイザー) 監訳者 鈴木正範、訳者 上野博 東洋経済新報社 2640円

荒唐無稽に見える未来予想の数々 実は人類を繁栄に導く現実的“解”

 現代社会の基盤は、画期的イノベーションが生み出したテクノロジーに支えられている。我々は、車や電気の無い世界をほとんど想像もできなくなっている。本書は、テクノロジスト(技能技術者)と未来学者の論客2人が、テクノロジーの視点から、21世紀の社会体制を壮大なスケールで展望するものである。

 人類の存亡に関わる課題を現行の民主主義、資本主義で克服できるのか、と彼らは問う。新型ウイルスに欧米諸国は有効に対処したどころか、最も深刻なダメージを受けたのではないか。膨大な飢餓人口の一方で大量に廃棄される食糧、多数の人々が家を持てない中で増える空き家。民主主義、資本主義は今後も社会格差を広げ、人類共通のさまざまな課題は解決できない、とする。

 我々はどこに向かっていくのか。著者らが今後のシナリオの決め手とするのが、気候変動、格差、AI(人工知能)の3要素である。気候変動という自然からの脅威と、社会に内在する格差問題のいずれにも、現行の体制は十分対処できていないし、先行きも不透明である。そこに、今後のキーテクノロジーたるAIが「もろ刃の剣」のごとく関わる。

 そもそもテクノロジーと格差は密接な関係にある。現代における時価総額の大きい企業の多くはIT関連などのハイテク企業であり、それらを所有する者たちが長者番付の上位を占める。計り知れない可能性を持つAI技術も、さらなる格差をもたらす可能性がある。一方で、スマート社会の実現や政府機能の代替などを通じ新たな社会体制を支える潜在力も秘める。

 著者らは、人類の選択に基づく四つの未来シナリオを提示する。国家の機能不全、戦争や災害の頻発、大量の“気候難民”を生む「失敗シナリオ」などに対し、最も望ましい社会こそ「テクノソーシャリズム」である。ソーシャリズムといっても、いわゆるマルクス的な社会主義ではない。世界規模の課題の認識を共有し、テクノロジーをもって対処する体制を意味する。

 AIなどが広範な自動化を実現し、ベーシックインカム、地球外惑星居住、人体機能の拡張など、今は荒唐無稽(むけい)にもみえる施策の数々が人類に繁栄をもたらす。SF小説のようだが、SFと違うのは、彼らのシナリオはタイムマシンのごとき空想ではなく、現実のテクノロジーの延長線上に描かれているということだ。いずれやってくる社会はユートピアかディストピア(暗黒郷)か。試されるのは我々読者の想像力だろう。

(後藤康雄・成城大学教授)


 Brett King 米オバマ政権の戦略アドバイザーをはじめ、世界各地で未来技術に対するアドバイスを展開。

 Richard Petty 香港を拠点に活動し、複数の国の経済競争力に関する調査などを主導している。

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