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国際・政治 FOCUS

英伊で首相辞任 EUとの関係に懸念=橋本択摩

後継首相に有力な英国のトラス氏(左)とイタリアのメローニ氏 Bloomberg
後継首相に有力な英国のトラス氏(左)とイタリアのメローニ氏 Bloomberg

後任の有力候補は英がジョンソン氏後継、伊は極右政党党首

 ロシアに対する結束が求められる中、欧州主要国の政権基盤が揺らいでいる。

 英国では相次ぐ不祥事により、ジョンソン首相の求心力が与党内で失墜し、7月7日に辞意を表明した。後任候補を決める与党・保守党の党首選は進んでおり、スナク前財務相とトラス外相の2人に絞られている。保守党員による決選投票を経て、9月5日に新党首が決定される予定だ。

 保守党所属下院議員によるこれまでの投票では、スナク氏が一貫して首位に立っていたが、保守党員の決選投票ではトラス氏に軍配が上がるとの世論調査(7月20〜21日)も出ている。トラス氏は最後までジョンソン首相を支持するなど関係が近く、前政権の政策を基本的には踏襲するとみられる。欧州連合(EU)との間で一度は合意した北アイルランド議定書の見直しを求める方針も維持され、EUとのぎくしゃくした関係が継続しよう。

 一方、イタリアでもドラギ首相が7月21日に辞表を提出し、マッタレッラ大統領に受理された。右派と左派の微妙なバランスを保ってきたドラギ政権だったが、左派「五つ星運動」の造反を皮切りに連立を組む与党の主要3党が、政策への不満を理由に20日に上院で行われたドラギ首相の信任投票を棄権し、連立維持が困難になっていた。

 イタリアでは9月25日に前倒し総選挙が実施されるが、金融市場やEU当局者から不安な視線が注がれている。世論調査(7月23日)で、支持率トップを走るのが極右「イタリアの同胞」であり、同党首班の右派連立政権が誕生する可能性が高まっているからだ。

移民排斥を主張

 イタリアの同胞のメローニ党首は、移民の排斥と伝統的家族の擁護を強く訴え、外交面では米国との関係重視、対ロシア・中国への強硬姿勢といったスタンスをとるなど、欧州議会で同会派のポーランドの与党「法と正義」とやや近い。

 2021年2月発足のドラギ政権は、積極的な新型コロナウイルス対策や、EU復興基金を活用した経済支援を進め、ウクライナ危機では対露強硬策をとり、伊国民や国際社会からの高い評価につなげた。EU復興基金のうちイタリアへの配分額は総額1915億ユーロ(約26兆8000億円)にのぼる。

 しかし、基金受け取りのためには伊政府による規制緩和や税制改革など経済・行政改革プログラムの遂行が引き続き求められる。新政権が前政権の敷いたレールに沿って改革を進めることができるか、金融危機回避のための焦点となる。

 また、金融引き締めに伴い、高債務国であるイタリアなど南欧諸国の国債金利が上昇する中、欧州中央銀行(ECB)は7月21日、ユーロ圏の金融市場分断を防止するための新たな債券買い入れ措置「伝達保護措置(TPI)」の導入を決定した。改革遂行がTPI発動の条件となることが想定される。伊新政権とEU、そして金融市場との間で再び緊張関係が高まること必至だ。

(橋本択摩・国際経済研究所上席研究員)

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