海外で続々「原発回帰」なのに日本は稼働10基以下という現実=荒木涼子
政府は6月の「骨太方針」で、昨年は「可能な限り依存度を低減する」としていた原発について、福島の原発事故後初めて「最大限活用する」と盛り込んだ。海外でも「原発回帰」の流れがある。>>>特集「電力危機に勝つ企業」はこちら
日本 11年以降21基が廃炉に
建設中の3基や廃炉の24基も含めると、国内にある原発は60基。多くが1970~80年代の建設だ。出力は1基当たり60万~120万キロワット程度。2011年東京電力福島第1原発事故前は、54基が稼働中で電力需要の3割をまかなっていた。
しかし福島第1の事故を機に、原発の安全チェックが大きく変わった。安全規制を担う「原子力規制委員会」が12年9月に発足。電力各社が原発を再稼働させるには規制委による審査をクリアしなければならなくなった。審査の“ルール”の新規制基準は、地震や津波の自然災害の備えに加え、炉心溶融(メルトダウン)などの過酷事故が起きた際の対策も求める。
審査に「合格」しても、基準に合う安全対策工事や、設備の詳細設計に関する認可、検査など必要な手続きがあり、テロ攻撃などに対応できる施設も必要になる。対策は1兆円を超えることもあり、老朽化や採算性から21基が安全審査の申請を見送られ、廃炉が決まった。
17基が合格したが、再稼働には工事の完了や、地元自治体の同意も必要となる。22年7月30日時点で再稼働できたのは6原発10基だ。再稼働後も定期検査が必要で常時稼働しているわけではない。
再稼働を進める政府や自民党などは「審査の効率化」を訴えるが審査中の10基は敷地内の断層の活動性の有無や、審査資料の書き換え問題などで慎重にならざるを得ない理由がある。
政府のエネルギー基本計画では「可能な限り依存度を低減」としているが、政府は7月29日、新型原発の建設工程案を示した。
世界 電力需要1割、新興国で増化
世界原子力協会(WNA)によると、運転可能な原発は2022年1月現在、33カ国に431基。21年の発電電力量は20年比4%増の2兆6530億キロワット時だった。世界の電力需要の1割に相当し、統計のある1970年以降過去3番目に多い。近年発電量はアジアやアフリカ、南米で上昇傾向にあり、顕著なのが中国だ。
また、世界で10基の建設が始まり、うち6基は中国だった。他にもインドやアラブ首長国連邦で建設ラッシュが続く。一方、70~80年代に建てられた原発を多く持つ米英やカナダは過去10年間で新規の運転開始がほぼなく、徐々に基数は減少。ロシアや韓国は古い炉を閉鎖しながらも新規建設も続けているため、微増だ(図2)。
中露政府は財政支援で戦略的に輸出を働きかけており、世界で建設中・計画中の原発では中露企業の比率が高い(図3)。
米国 市場は苦戦も超長期運転視野
93基で合計出力1億キロワットを有する世界最大の原子力利用国だ。だが安全対策費の高騰やシェールガス革命で電力自由化市場では苦戦。安全対策費もかさみ早期閉鎖を余儀なくされる原発もある。一方、60年以上の長期運転を実施する原発もあり、近年では100年運転を視野に入れた議論もある。
英国 戦略や支援策で重視の姿勢
12基で出力850万キロワット。老朽化で減少傾向にある。だが最新のエネルギー安全保障戦略で50年までに最大2400万キロワットを確保としている。ただし具体的な新計画は明かされていない。7月19日には担当省が雇用や投資促進に向け「原子燃料基金」を7500万ポンド(約124億円)の予算で始めると発表した。
独仏 揺れる独、利用強化の仏
福島事故を受け、脱原発を決めたドイツは3基が22年末に停止予定。ただし、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰で運転延長論が浮上し、揺れている。フランスは56基、世界2位の6400万キロワット分を保有。新設再開や延長可能な全原発の延長を発表した。核のごみ処分場の候補地も固まる。
中露 次世代型原発の開発強化
中国は22年1月時点で51基だが、建設中が19基、計画中は24基に上る。25年までに約7000万キロワットを目指す計画で23年にも発電量は世界2位になるとされる。ロシアは34基で2950万キロワットを有する。建設・計画中の14基の他、中東などへ輸出を加速。両国とも次世代型原発の研究開発・実証化も注力する。
(荒木涼子・編集部)