経済・企業

小麦高騰、コメ暴落、どうなる食料安保=斎藤信世

コロナと食生活の変化の二重苦 コメ価格下落で苦しい農家=斎藤信世

 コロナ禍でコメ価格の下落が続く。外食需要の減少などが背景にあるとみられるが、消費者のライフスタイルの変化といった構造的な変化も追い打ちをかけている。

 ウクライナ・ロシア戦争や円安などの影響で、小麦をはじめとする穀物価格が上昇する一方で、日本人の主食であるコメ価格の下落が止まらない。背景には新型コロナウイルス感染拡大による外食需要の減少などがあるとみられる。

 農林水産省の「米穀の取引に関する報告」によると、コメの相対取引価格(全銘柄平均)は過去2年間で下落傾向にある。直近の6月(速報値)では、前年同月比で約11%下落、2カ月連続で落ち込んだ。また、同省が7月27日に発表した「令和4年産米等の作付け意向」によると、6月末時点で主食用のコメの作付け意向を前年より減少傾向とした都道府県は40県。これにより、全国の主食用作付面積は2021年実績と比較し、約4.3万ヘクタール減少する見通しだ。

 他方で、米粉用米などの戦略作物の作付け意向は、増加傾向にある。6月末時点で、飼料用米(45県)、大豆(31県)米粉用米(27県)がそれぞれ前年より増加傾向にあると回答した。

 JA水戸の担当者によると、「肥料高も相まって、コメ農家が置かれている状況はかなり厳しい。家族経営の農家は所得確保のために肥料米などへのシフトを進めている」と話す。また、来年以降も「状況は厳しい。今後はある程度(農家の)淘汰(とうた)が進んでくるのでは」と警鐘を鳴らす。

 08年に小麦価格が高騰した際は、コメへの回帰が進んだ。しかし、今回は足元で新型コロナ感染の「第7波」が到来しており、外食需給の緩みは当分解消されそうにないことからも、「前回のようなコメ需要の高まりは期待できない」と資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は予想する。

 一方で、輸入小麦の価格上昇は顕著だ。4月からの輸入小麦の政府売り渡し価格は前期比で17.3%上昇している。

 コロナ禍で外食需要が減少したことに加え、ライフスタイルの変化による若者のコメ離れなど、コメ需要減少の要因はさまざまだ。米穀安定供給確保支援機構(東京・中央区)がまとめた統計によると、21年4月~22年3月の1人1カ月当たりの精米消費量は前年同期比4.2%減の4529グラムだった。

経済のブロック化への備え

 柴田氏は、こうした日本人のコメ離れに対する解決策として、1999年に制定された「食料・農業・農村基本法」を見直す必要があると指摘する。同法は、グローバリゼーションが加速する頃に制定された法律で、主に大規模生産を行う「企業的農業」の育成に軸を置き、家族経営の農家の衰退を招いてきた。

 柴田氏は、「99年に制定された基本法は経済のブロック化が進む現代に見合っていない」と述べる。その上で「コメ離れで苦しむ家族経営農家を支援する上でも、また、食糧安全保障上の観点からも、国内の食糧生産の拡大を促進し、予算や人材、技術など、日本の農業資源をフル活用する基本法への改定が急務だ」と指摘する。

(斎藤信世・編集部)

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