スウェーデンで成功した産業構造の転換に学ぶ電力危機の乗り越え方=編集部
危機を乗り越えるヒントは北欧の福祉国家にありそうだ。>>>特集「電力危機に勝つ企業」はこちら
脱炭素化が促す経済成長
電力逼迫(ひっぱく)という危機をどう乗り越えるか。一つのヒントが、北欧諸国の社会システムにありそうだ。脱炭素の政策に詳しい諸富徹・京都大教授は「ピンチはチャンス。日本は今、大きな社会の構造転換を狙えるとば口にいる」と話す。どういうことか。
スウェーデンの国内総生産(GDP)と二酸化炭素(CO₂)排出量の推移を経済協力開発機構(OECD)の統計データから見てみよう。1990年の指標を100とした場合、GDPは2018年時点で182、CO₂排出量は66だ(図の実線)。経済成長を実現しつつ、CO₂排出量の削減もした「デカップリング」に成功していると諸富氏は解説する。
一方、日本のそれらの推移や指標を見ると、18年時点のGDPは131、二酸化炭素排出量は103で、ほぼデカップリングできていない(図の点線)。
ただし、12年ごろからは少しずつデカップリングの動きが見られる。同年は日本でいわゆる「炭素税」の一種「地球温暖化対策税(温対税)」が導入された年だ。原油や石炭などに課税する石油石炭税に、CO₂排出量に応じた税率を上乗せして徴収するようになった。スウェーデンは91年に炭素税を導入している。
諸富氏は「炭素税は産業構造の転換を促す仕組みの一つ。例えば、企業が付加価値のあるものを生み出しても、たくさんCO₂を出しながら作っている企業と、出さない企業では、出している企業の方が苦しくなる。苦しさから逃れるためには、自分たちの生産活動を転換していくしかない。これが積み重なれば産業構造の転換へとつながる」と話す。
産業構造の転換のためには、温室効果ガスの排出に負担を求め、企業や消費者の行動変容を促すカーボンプライシングの導入が欠かせなさそうだ。炭素税はその一つで、他にも排出量取引などがある。
カギは人的投資
一方で、産業構造が転換する過程では、廃業や失業も予想される。職を失った人が必要な知識や技術を習得(リスキリング)して再出発できるよう、社会保障制度や雇用政策でのセーフティーネットの用意も必要だ。諸富氏は「企業を助けるのではなく、人的投資の拡大が必要だ。分配に力を入れる福祉国家のスウェーデンは人的資本への投資を重視しており、それが新興グローバル企業を次々と生み出している」と指摘する。
スウェーデンでは今もなお、ボルボに代表される自動車産業など製造業に強みを持つ一方、デジタル音楽配信サービス「Spotify」やビデオ会議サービス「Skype」など、新しいサービスを生み出す企業も登場している。
新たな業態を考えるのは「人」だ。新しい社会のニーズに対応することは、企業の業績向上にもつながるだろう。人への投資こそが経済成長となるということを、デカップリングできたスウェーデンの戦略は示している。
石油危機や公害が深刻な問題となった70年代、日本企業は環境技術を磨き、自動車や電機の国際競争力を高めた。「電力危機」という目の前の社会課題からあるべき未来に思いをはせ、変革を起こす覚悟が、日本社会に試されている。
(編集部)