教養・歴史書評

議論の前に冷静に学ぼう メディア影響論の系譜=荻上チキ

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「マスメディアの影響力」についてどう思いますか。そう尋ねると、多くの人が、何かしらの意見を述べたくなるだろう。「最近のテレビは数字稼ぎにばかり熱心で大事なことを伝えていない」とか、「NHKは偏った報道ばかりしている」とか。そして発言は、次のようにつながる。「これでは、世の中の人々が、愚かな判断をするようになってしまう」。

 こうした意見を述べるとき、人は前提として、「メディアは、人々に何かしらの影響を与えている」と考えている。実際、影響はゼロではないはずだ。では、実際にはメディアは、どの程度の力を持っているのだろう。そう問い直すと、かなり立場が分かれるのではないだろうか。

 そのまま「論争」に突入する前に、ぜひ、メディア影響論の系譜を学んでみてほしい。メディアの影響をめぐる議論が、一筋縄ではいかないことを思い知るはずだ。

 メディア論は大まかに、「強力効果説」と「限定効果説」という二つの理論軸を行き来してきた。その一方で、メディア効果をめぐる実証的な個別研究も次々に登場している。今はメディア影響研究の多くは、「どのメディアが」「どう報じれば」「誰に」「いつ」「どのような仕方で」「どの程度の影響が出る傾向があるか」といった細かな検討を行っている。すでに、メディアの影響が単に「ある」のか「ない」のかといった議論は、有意味なものではなくなっている。

 そんな現在にあって『マスメディアとは何か 「影響力」の正体』(稲増一憲著、中公新書、968円)は、メディア影響論をめぐる研究史を丁寧に振り返りつつ、現在のメディア議論の先端への橋渡しをしてくれる。報道を自身の立場とは逆の方向に偏っているとみなす「敵対的メデイア認知」。メディアの報道の仕方や切り口によって人々の反応が変わる「議題設定効果」「フレーミング効果」。こうした重要理論が、どんな研究によって登場してきたのか、整理もしてくれている…

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週刊エコノミスト

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