経済・企業

コロナ禍の先にあるGood news, Bad news 新路線から廃線まで=村田晋一郎

開業の準備が進んでいる宇都宮ライトレール
開業の準備が進んでいる宇都宮ライトレール

 日本の鉄道は、この秋に150周年を迎える。人口減少とコロナ禍で苦境にあるが、未来に向けた取り組みが進む。(鉄道150年 復活の条件 ≪特集はこちら)

コロナ禍での改革を強みに

問われる鉄道の存在意義

 2020年からの新型コロナウイルス感染症拡大によって、人々の移動の制限・自粛により需要が大きく落ち込み、この2年間、鉄道業界は深刻な打撃を受けた。22年夏も第7波で先行きは不透明な状況にあるが、行動制限は緩和されつつあり、世の中は正常化に向かいつつある。コロナ禍からの回復の過程にある中で、日本の鉄道は150年の節目の年を迎えることになった。

 コロナ禍は、鉄道各社の業績を大きく押し下げた半面、構造改革を促した。もともと鉄道会社は固定費の割合が大きく、コロナ禍の当初は需要が2割減少しただけで、損益分岐点を下回る会社が続出した。そこから各社はDX(デジタルトランスフォーメーション)などで業務の効率化を進めるとともに、終電の切り上げやダイヤの減便で需要減に対応した。運賃も、現行の制度を見直す機運が高まっている。

 定期外収入は、コロナ前以上に増やせる可能性もある。各社も定期外の収入を増やすために、沿線の観光資源の開発に注力している。定期外収入の増加により、22年度の売り上げが、コロナ前の19年度比で9割まで戻るとの見通しを立てている鉄道会社は少なくない。経営改革や収益構造改善の取り組みの成果は、コロナ終息後に表れてくると思われる。

新規路線に期待

 明るい材料はまだある。今年9月に西九州新幹線武雄温泉(佐賀県)─長崎間が開業する。また、今年度中、23年3月までには、相鉄・東急新横浜線が開通し、相鉄線と東横線がつながる。渋谷から新横浜まで乗り換えなしで行けるほか、相鉄線沿線から渋谷や目黒を経由して複数の地下鉄路線へ接続できるようになる。

 福岡では市営地下鉄七隈線が天神南駅から博多駅まで延伸され、福岡南西部から博多へのアクセスが良くなる。工事の遅れが懸念されているが、宇都宮ライトレールも今年度中の開業を予定しており、宇都宮市東側の交通の利便性が大きく向上する。来年度以降も、北陸新幹線や北海道新幹線の延伸が予定されており、長距離移動の新幹線網が広がる。

 インバウンド復活を見据えた観光地へのアクセス向上に向けては、ひたちなか海浜鉄道と大阪メトロ中央線の延伸も期待される。ひたちなか海浜鉄道はネモフィラで有名な国営ひたち海浜公園の直結駅を設け、阿字ケ浦から延伸する。大阪メトロ中央線は、25年の大阪万博の開催地である「夢洲(ゆめしま)」まで延伸する。こうした新規路線の開通が鉄道需要の回復を後押しすることが期待される。

「廃線」警戒する地方

 それでも、鉄道需要はコロナ前の8割までしか回復しないというのは業界の共通認識になりつつある。リモートワークが定着し、通勤・通学の定期収入がコロナ前の水準に戻ることはないと見られている。コロナ禍以前から需要減の地方路線では、廃線もしくは廃線の危機にある路線が少なくない。

 地方の鉄道需要の減少は、コロナ禍以前に、人口減少、地域社会や経済の衰退によるものであり、鉄道の存続は鉄道会社で対応できる範疇(はんちゅう)を超えている。地域経済をどう立て直していくかは、鉄道事業者だけでなく、国や自治体と議論していく必要がある。JR北海道やJR九州はかねてより路線別の収支を公表していたが、今年に入って、4月にJR西日本が、7月にJR東日本が路線別の経営状況を公表した。JRとしては、これを議論のきっかけにしたいという考えがある。

 ただし、JR側がこうした情報開示を行っても、自治体側の反応は鈍いという。既にJR北海道では複数の路線の廃止が決定されていることもあり、JR側から「廃線ありき」で議論を進められることを警戒している。また、路線維持の方針を示すことは首長にとって重要な選挙対策でもある。

 JR西日本とJR東日本の公表を受けて、対象路線を抱える自治体の首長の間では、会合を開くなど連携して、路線維持の方針を示しているが、具体策に乏しい印象を受ける。地域住民としても鉄道は残してほしいが、日常の足としては鉄道を利用しないというのが実情だ。

 鉄道を維持するなら、鉄道会社だけでなく、まず国や自治体が、その地域をどのように復興させるかを考える。そして将来の地域社会の姿を描いた上で、交通手段として鉄道をどう位置付けるかが重要だろう。

自治体も覚悟が必要

20年7月の九州豪雨で被災した肥薩線
20年7月の九州豪雨で被災した肥薩線

 特に鉄道の意義が問われるのは、昨今多発している自然災害で被災した路線の復旧である。

 今、議論の最中にあるのが、20年7月の九州豪雨で被災した肥薩線八代(熊本県)─吉松(鹿児島県)間の復旧問題である。JR九州は国土交通省や熊本県が開催する「JR肥薩線検討会議」に参加し議論を進めている。JR九州では当初鉄道の復旧額を約235億円と算出した。

 これに対し、国交省は橋梁(きょうりょう)の架け直しや河岸のかさ上げなどを公共工事として国の負担とすることや、国道などの災害復旧工事と連携することでJR九州の負担を76億円に軽減する案を示している。

 だが、被災前の八代─吉松間の営業損益は約9億円の赤字である。現在、JR九州では普通区間で代行バスを運行しているが、仮に復旧したとしても現在の代行バス以上の利用は見込めず、赤字が継続するとの見通しだ。

 自然災害による被災は、鉄道会社単独での復旧は難しく、国や自治体の支援が必要となる。そこで鉄道を復旧する場合、国や自治体にはその地域における鉄道の意義を示すとともに、支える覚悟が問われる。

(村田晋一郎・編集部)

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