国際・政治 中国
中国の台湾侵攻が「時間の問題」とされる根拠=山崎文明
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衛星写真から浮かび上がる侵攻シナリオが現実味を帯びている。
台北の大学生が公開した中国軍事施設の配置図
台湾対岸に軍事基地がズラリ
米下院議長のナンシー・ペロシ氏が8月初旬、台湾を訪問した。25年ぶりとなる下院議長の訪台には、「一つの中国」というスローガンの下、台湾の独立を認めず、併合への準備を進めつつある中国をけん制する狙いがある。
中国の習近平国家主席は「台湾統一を果たさなければならない」との見解を示してきた。「平和的に」との条件付きだが、実際は武力による併合の可能性を排除していないと見られている。つまり、「台湾侵攻」である。軍事基地拡充の状況を見ると、中国共産党とその軍隊である人民解放軍が、台湾侵攻を現実的なシナリオとして持っていることは明白だ。
「圧倒的な力」確立へ
中国の軍事基地など国防に関する情報は国家機密で公にされていない。しかし、GPS(全地球測位システム)を使い世界の地理情報を提供するグーグルの地図サービスなどにより、民間人が簡単に基地の場所を特定できる時代になった。
6月20日、台湾の首都、台北市に住む東呉(とうご)大学音楽学科4年生の温約瑟(ウエン・ジョセフ)氏が「中国人民解放軍基地と施設」と題した地図を公開し、話題となった。1200カ所以上の中国人民解放軍の軍事拠点の位置を示す地図を独自の手法で作成したとしている。
温氏は、ネット上に公開されているグーグルマップや、中国IT大手の百度(バイドゥ)など複数の民間地図サービス、人民解放軍の公開資料や内外の研究機関の論文、さらにはネット上に流出している写真などを参照したという。
例えば、ネットにアップされていた中国人民解放軍ロケット軍第666旅団の基地の写真が、衛星画像にある河南省信陽市の建物と特徴が一致していることを突きとめた。
中国ではこうした軍事施設の位置は、軍事機密として扱われており、「中華人民共和国測量法」という基本法と「地図管理条例」という条例で、個人が測量を行ったり、地図を作成することは禁じられているが、温氏は各国の諜報(ちょうほう)機関が行っている「オープンソースインテリジェンス」の手法で、詳細な地図を作り上げた。
この地図を見ると、誰しもが、中国の台湾侵攻を想起せずにはいられないだろう。中国人民解放軍の軍事施設が、台湾海峡沿いに張り巡らされているからだ。
江西省のロケット軍基地である贛州(かんしゅう)基地には、ロケット軍第616旅団が配置されており、2019年の中華人民共和国建国の日に北京で初めて公開された極超音速弾道ミサイル「東風17(DF─17)」が配備されている。極超音速弾道ミサイルは、中国が台湾に侵攻する際に、外国の軍が干渉しようとした場合に、接近阻止を目的に戦略的に配備したものとされている。台湾海峡沿いには、多数の軍事施設が建設されているのが分かる。台湾海峡は非常に狭…
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週刊エコノミスト
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