教養・歴史書評

情報を収集し分析する「マッピング思考」のありがたさ=孫崎享

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 2019年、私は日本を客観的に見ようと、古代から占領時代まで外国人が日本について語ったことを集めて『日本国の正体』という本にまとめた。執筆にあたって最も印象に残っているルース・ベネディクト著『菊と刀』の中にこう書かれている。

「(日本人は)行動が末の末まで、あたかも地図のやうに精密にあらかじめ規定されて居る。人はこの「地図」を信頼した。そしてその「地図」に示されてゐる道を辿(たど)る時にのみ安全であった」

 したがって私は「地図」という単語に過敏になっている。ジュリア・ガレフ著『マッピング思考 人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」』(東洋経済新報社、1980円)は原題が「The Scout Mindset(偵察的思考)」で、行動のマップを作る前の情報収集・分析に重点がある。私の専門は情報収集・分析なのでありがたかった。

 著者は冒頭「人は信じたいことをなんとしてでも信じたがる。人は信じたくないことに目をつぶる」と指摘する。私は国際情勢の分析で、いくつかの根拠を示し、論議をすることがあるが、その際に頑迷に自説に固執し、提示された根拠を見ようとしない人々に遭遇する。なぜなのか。ガレフは理由の一つに「コミュニティーへの帰属感」を指摘した。

 私は外務省にいたが、省の政策にマイナスになる情報を見ないようにする人々にしばしば会った。彼らには帰属感が最優先される。

 ガレフは面白い現象を指摘する。米国の情報機関「情報高等研究開発活動(IARPA)」が「(国際情勢の)予測トーナメント」を実施した時、あるチームは一流大学の教授チームに最大70%の大差で圧勝し、CIA(米中央情報局)にも30%の差をつけて勝利したという。

 このチームは素人集団で、情報はグーグルで検索する程度。だが彼らは新しい情報を得る度に考えを微調整した。3カ月のトーナメント期間中、情報収集を頻繁に行い…

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週刊エコノミスト

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