ひなびた寺社の魅力を満載した一風変わった京の案内記=今谷明
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今回は趣向を変えて、歴史の舞台となった土地について、隠れた名所について取り上げよう。柏井壽(かしわいひさし)著『おひとりからのしずかな京都』(SB新書、990円)は、京都に長年居住する医師が著した名所案内記だが、その視角が変わっていて面白い。
歴史の舞台といっても、平安・鎌倉時代の政庁や居宅は例外なく失われている。室町期の遺跡でかろうじて当時の面影を伝えているのは銀閣(慈照寺)くらいで、修学旅行で学生諸君が見学する清水寺にしても御所(内裏)にしても、みな江戸時代に再建・改築されたものばかりだ。
その点では、「漢・唐は日本に在り」と称して奈良に殺到していた中国人観光客のほうがよほど史実に接近していたとみてよい。
しかし、京都にはそうした著名な遺跡から離れても、静かに一人で訪れたい雰囲気のしんみりとした寺社が少なくない。都富士(みやこふじ)(比叡山)の借景で知られる西賀茂の正伝寺(しょうでんじ)は、応仁の乱で堂の建物が焼き尽くされたものの、この苦難を乗り越えて残った庭園は息をのむ美しさ。工芸家、書家、画家などマルチな才能を発揮した本阿弥光悦が徳川家康から与えられ、多くの芸術家が集った鷹(たか)ケ峰の一帯。また上賀茂神社の東側一帯もひなびた寺社が多く、玄人筋の穴場となっている。
全国に庭園多しといえども、京都の庭がなぜ美しく庭らしいのか。それは「人工的な建造物は一切視界に入ってこない」…
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週刊エコノミスト
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