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経済・企業 日本株

インタビュー 日本株の底力「長期の上昇トレンドがまだまだ続く三つの理由」

 日本株の回復が続いている。上昇トレンドは本物なのか。米大手資産運用会社「フィデリティ投信」の日本株式運用責任者である鹿島美由紀・取締役副社長兼運用本部長に聞いた。

(聞き手=稲留正英・編集部)

 日本株は海外投資家に人気のない金融資産クラスといわれる。1990年代からの長い下落局面や人口減少で「経済が縮小する」というイメージが染みついているためだ。しかし、事実は、第2次安倍晋三政権の「アベノミクス」が始まった2012年12月以来、この10年間で、配当込みのTOPIX(東証株価指数)は240%強上昇した。これは米国株を除き、先進国の株式の中では最も高い値上がり率である(図1)。

 年初からの株価は、ウクライナへのロシア侵攻、世界的なインフレ、米国の利上げを受けて、ほぼ横ばいで推移している。だが、日本株の長期的な上昇トレンドは変わっていない。その理由は三つある。

 まず、岸田文雄政権になっても、安倍政権以来の成長戦略は維持されている。アベノミクスは、(1)大胆な金融政策、(2)機動的な財政出動、(3)民間投資を喚起する成長戦略──が柱だが、新型コロナウイルスの感染拡大下、ちゅうちょなく機動的な財政出動が実施された。また、欧米で物価が高騰し、各国の中央銀行が利上げに動いた局面で、日銀は日本の状況に合わせ金融緩和を維持した。

 今年7月の参院選で自民党が勝利したことで、岸田政権は次の大きな国政選挙がある3年後まで、安定した政権運営ができる。来年4月に任期を迎える日銀の黒田東彦総裁の後任人事が注目されるが、誰が就任しても、急に金融緩和のスタンスを変えるとは考えにくい。

設備投資も順調に回復

 二つ目は、新型コロナの沈静化後は、日本経済は賃金と設備投資が増える好循環に戻ると予想されることだ。日本経済の過去20年間を振り返ると、前半と後半の10年では全く様相が違う。これは、国内総生産(GDP)を「実質」ではなく「名目」で見るとよく分かる(図2)。前半の10年間では(物価が持続的に下落する)デフレ経済により、総雇用者所得は15%、設備投資は24%減少し、名目GDPは50兆円失われた。

 しかし、アベノミクス以降、新型コロナが発生する前の19年まで、名目GDPは60兆円増加した。設備投資は75兆円から95兆円に、総雇用者所得は、12年末から15%増えた。海外投資家からは「人口減少が日本株の下落要因になるのでは」と指摘されるが、実はこの20年は逆の現象がみられる。日本の人口は2010年にピークを付けるまで経済は縮小し続けた。一方、その後に人口が多少減っても、政策が正しく所得が増えた期間は経済は拡大して株式相場も上昇した。

 一部で指摘されるように、フルタイムで働く正社員の年間総実労働時間は、労働基準法の改正で時間外労働(残業)の上限が決まったことで増えていない。しかし、その分、パートなどの女性の労働参加率が高まり、世帯収入および総雇用者所得は、新型コロナで下押しされた期間以外は順調に増加している。働く人の数は限界近くまで来ているが、労働時間はまだ余裕がある。日本のGDPに占める個人消費の割合は約6割であり、総雇用者所得の増加は経済成長の大きな支えになる。

 設備投資も順調に回復してきている。デフレの時は売り上げが減るので、企業経営者は投資ができなかった。そのため、物価高に苦しむ欧米とは違い、穏やかなインフレは日本経済にとっては大きなプラス要因だ。日本は米国に比べ、特に企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)化で出遅れている。今後、この分野の投資は続くと見られ、それ以外にも、脱炭素、自動化・省人化、ヘルスケアなどの分野で、日本企業には成長に向けた多くの投資テーマがある。

個人資産2000兆円

 現在、冬場のエネルギー需給の逼迫(ひっぱく)が懸念されるが、日本には安全基準をクリアし、再稼働できる原発が複数ある。経済の安定度でロシアの天然ガスに依存する欧州とは大きく違う。安倍政権の下で名目GDP600兆円の目標が打ち出されたが、このまま政策が継続されるなら、その達成はそれほど難しいものではないだろう。

 日本株に強気な三つめの理由は、日本株を「アンダーウエート」(資産構成の中で組み入れ比率が相対的に低いこと)している海外投資家の資金が一部、日本株に向かうと予想されることだ。米国とカナダを除く先進国株式指数「MSCI EAFE」に占める日本株のウエートは直近で22%。それに対し、グローバルなアクティブ運用のファンドは1割近くアンダーウエートしている。

 小泉純一郎政権時代の04~05年、海外投資家が日本株のアンダーウエートを数%修正した時は、20兆円くらいの資金が日本株市場に流入した。今回も「先進国の中でファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)と政権・政策が安定し、パフォーマンスの良い日本株の割合を中立に戻す」という動きがあれば、同様に兆円単位のお金が流入してくる可能性がある。

 日本の個人金融資産2000兆円に占める株式の割合も10%足らずと、米国(38%)や欧州(18%)に比べて著しく低い。この10年間、アベノミクスの下で、日本の企業業績は回復し、上場企業の1株当たり利益(EPS)は上昇し、それに連動して株価も上昇してきた。PER(株価収益率)などの株価指標も米国に比べると割安だ。日本人自身が日本株の良さにまだ自信を持っていないが、多少のインフレが現実味を帯びてきた今、資産を現預金だけで持つ不安を日本人も多少感じ始めているのではないか。(談)

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