ペロシ訪台は中国に現状変更の「口実」を与えたのか、東アジアの同盟強化になったのか=河津啓介
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米国のペロシ下院議長が8月に台湾を訪問し、中国が対抗措置として大規模な軍事演習を1週間にわたって実施した。1995~96年の台湾海峡危機以来の軍事的緊張ともいわれた。
下院議長の訪台は前例(97年)があるが、中国は激しく反発。中国軍の戦闘機や艦船が、暗黙の停戦ラインとされる海峡の「中間線」を越え、弾道ミサイルの一部が日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。
米国ではペロシ氏の訪台に賛否両論がある。米政治学者のイアン・ブレマー氏は8月10日、自らのニュースレターで「不必要な挑発によって、習近平(国家主席)に台湾の主権を削り取り、海峡での存在感を高めるエスカレーションを行うための口実を与えた」と批判した。
米ブルッキングス研究所の中国専門家、ライアン・ハス上級研究員も今回の訪台に否定的な立場だ。ハス氏は米誌『フォーリン・アフェアーズ』への寄稿(電子版8月16日)で、緊張を利用して現状変更を試みるのは「中国の行動パターンの一部」と分析。類例として、中国が2012年に沖縄県・尖閣諸島の国有化を口実に日本への領海侵入を恒常化したり、インドとの間でも近年、国境地域での摩擦を理由に軍事施設や兵員の配置を拡大したことを挙げた。
「ペロシ氏は称賛されるべきだ」と評価したのは米政治学者のウォルター・ラッセル・ミード氏だ。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』の論説記事(電子版8月8日)で①米国内で「中国に対抗する必要性がある」とのコンセンサスが強まった、②東アジアでの同盟強化につながった、との見方を示した。ミード氏は、非難されるべきはペロシ氏ではなく、中国の軍事的台頭を野放しにしてきた過去の…
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週刊エコノミスト
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