ペロシ訪台が日中国交正常化50年に冷水を浴びせた今、日本が期待される役割とは=及川正也
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ロシアのウクライナ侵攻に世界の目がくぎ付けとなり、いったんは和らいだかに見えた米中対立。だが、8月初旬のペロシ米下院議長の台湾訪問によって再び緊張が高まっている。バイデン米大統領の制止を振り切っての訪台は波紋を広げ、揺れ動く米国の対中政策に日本政府も懸念の色を強めている。
ペロシ議長が訪台する前日の8月1日、台湾南東部のフィリピン海を米原子力空母ロナルド・レーガンが航行していた。米海軍は「通常のパトロール」と発表したが、「不測の事態に備えた警戒」(米メディア)だったことは間違いなかった。議長訪台について中国は「強力な対抗措置を取る」と明言。空母2隻を台湾に向け派遣した。
中国が大規模軍事演習を開始したのは、議長が台湾を離れた後の4日からだ。台湾の周辺海域での実射演習で、発射した弾道ミサイルのうち5発が日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下。日本政府は中国に抗議した。台湾国防部によると、中国の戦闘機が台湾海峡の「中間線」を越えて台湾の空域に初めて入ったという。
演習が続く8月5日、ロナルド・レーガンに乗り込んだのが、海上自衛隊の福田達也・護衛艦隊司令官だった。米海軍第7艦隊タスクフォースのマイケル・ドネリー司令官との定期協議のためで、今後の日米合同演習に向けた「作戦会議」だった。米中の政治対立の陰で「日米対中国」の軍事的な駆け引きが展開されていた。
「台湾有事は日本有事」
中国は大規模演習を見せつけることで、米軍に対抗する意思を示し、台湾問題では一歩も引かない姿勢を明確にするのが狙い、というのが共通した見方だ。日本の軍事筋は「南シナ海では中国機が米艦船に異常接近するのが常態化している。不測の事態が起きるリスクはどんどん高まっている」と懸念を示す。
仮に中台紛争が起きれば、日本も人ごとでは済まされない。台湾は沖縄県・与那国島からわずか110キロに位置し、戦線が広がれば日本にも飛び火する。日本にとって中国、台湾ともに大きな貿易相手であり、海上交通路が妨害されると日本経済は打撃を被る。政府・自民党からは「台湾有事は日本有事」との声も上がった。
ただし、日米間での具体的な危機対応には温度差がある。シンクタンクなどを通じて日本に伝わってくる米国の意向は、「日本にいろいろやってほしい」(防衛省筋)ということだ。米国が在日米軍を大規模に動員する場合、日米安全保障条約に基づき日本との事前協議が必要になるが、そのメカニズムは一度も発動されたことがない。
米側にとってみれば「事前協議がスムーズにいかなければ作戦に支障をきたす」という懸念があるのだろう。しかし、台湾攻撃だけで、集団的自衛権が行使できる「存立危機事態」、つまり日本の存立が脅かされると認定できるかどうかは不明だ。米側には、中台紛争は2国間の問題ではなく、国際秩序が大きく揺らぐ事態だけに、「柔軟な解釈」を求める声もあると…
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週刊エコノミスト
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