教養・歴史書評

戦時下に中国人の戦争観を分析した77年前の名著が再復刊された=加藤徹

 中国を相手とするビジネスパーソンにとって、例年の今ごろはピリピリする「敏感な季節」だ。7月7日(1937年の日中戦争勃発記念日)、9月3日(45年の抗日戦争勝利記念日)、9月18日(31年の満洲事変勃発記念日)と、戦争関係の記念日が続く。昨年、ソニーの中国法人が「7月7日夜に新製品を発表する」とネット広告で告知して中国のSNSで炎上し、中国政府から罰を受けた事件は記憶に新しい。今年は特に敏感だ。ペロシ米下院議長が台湾を訪問し、習近平国家主席が異例の続投を目指す党大会開催を控える。

 そんな敏感な時期に、鈴木虎雄『中国戦乱詩』(講談社学術文庫、1177円)が出た。戦時中の幻の名著の復刊だ。3000年前の周王朝から20世紀初頭に滅んだ清王朝まで、41首の漢詩を選び、翻訳と解説をほどこした訳解書である。著者は高名な学者だ。1878年に生まれ、京都大学教授として中国古典文学研究に新境地を開いた。

 1937年、日中戦争が始まった。日本人は楽観した。中国人の反日愛国は蒋介石の国民党の政治宣伝のせいだ。もうすぐ蒋介石政権は崩壊し、戦争は終わる。そんな世論を横目に、鈴木は市民相手の連続講義を行い、それを戦争最末期の45年2月に刊行した。本書の指摘は大胆だ。中国人は厭戦(えんせん)的ではない。歴代の漢詩を見よ。杜甫(とほ)の「出塞(しゅっさい)」は国際正義と戦士の理想をうたいあげる。古代の「国殤(こ…

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