岸田政権が払う安倍政治のツケ 国葬で終わらない旧統一教会問題 伊藤智永
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安倍晋三元首相の国葬は、二重三重にミソが付いた。国内世論の反対が強まる中、ほとんど唯一の意義として政府が「昭和天皇の大喪の礼以来」(外務省幹部)と意気込んでいた国際的弔問外交の機会は、エリザベス英女王の葬儀という破格な歴史的イベントの影に隠れ、明らかに色あせてしまったからだ。暗殺の動機・経緯といい、生前の強運と打って変わって、没後の安倍氏は運がない。
ただし、日増しに増幅した国葬反対の国内世論は、治世当時から世論の分断をいとわなかった安倍氏の政治スタイルが不可避的に招いた面があることは否定しがたい。自民党を席巻する旧統一教会問題も、「国政選挙6連勝」という1強政権の正当性が、目的のためには手段を選ばない運営方法によって作られていた影の部分をさらけ出した。「自民党として今後一切の関係を絶つ」とまで宣言した宗教団体と最も密接な関係にあった元首相に、なぜ国葬なのかという不審が残るのは当然だろう。二つの結びつきを晴らせないまま国葬当日を迎えることは、岸田文雄首相にとって誤算では済まされない痛恨の失策となった。
山際、萩生田氏が足かせに
「国葬は首相のこだわりで無理にやってもプラスよりマイナスの方が大きくなったが、悔やんでも仕方ない。終わったら懸案目白押しの政策論議へ局面を切り替えていくだけだ」。政府高官はスキャンダル中心の政治の流れを何とか政策主導に引き戻そうと躍起になっている。そのための推進力は、経済と防衛の2本柱だ。
まず10月に新たな経済総合対策を策定し、内容を盛り込んだ2022年度補正予算を秋の臨時国会に提出する。併せて物価高騰対策を、品目・分野ごとに切れ目なく追加していく。急速な円安の進行をにらんだ黒田東彦日銀総裁の後任選びも、官邸主導の強力なテーマと位置付けられる。
年末に向けた安全保障関連3文書(「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱=防衛大綱」「中期防衛力整備計画=中期防」)の改定は、防衛力の抜本的強化の内容と予算規模、財源策が焦点となるが、9月中に設置する有識者会議で政府の基本方針をまとめる。
政治の焦点をスキャンダルから政策論争へ位置付け直すのは王道だが、そうは問屋が卸しそうにない。旧統一教会問題で最も深刻な疑惑を抱えているのは、経済対策をとりまとめる山際大志郎経済再生担当相と、防衛問題で政府・自民党・公明党の調整役を期待される萩生田光一自民党政調会長。よりによって渦中の2人が、2大政策課題をけん引しなければならず、アキレスけんをかばいながらの政策決定を余儀なくされるからだ。
山際氏は、岸田首相が商工族議員として兄事し、昨年の総裁選でも世話になった甘利明前幹事長(麻生派)の直系議員として再任されたと見られている。萩生田氏は、安倍氏亡き後の安倍派の中心になると見込んで経済産業相から党3役に配置換えした。旧統一教会問題がここまで広がり続けるとは想定せず、…
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週刊エコノミスト
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