支持率急落の岸田政権 国葬「読み違え」で修正利かず 中田卓二
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政権発足から1年たたないうちに岸田文雄首相が窮地に陥っている。報道各社の9月の世論調査で内閣支持率が急落し、そのほとんどは不支持と支持が逆転した。「今は何をやってもうまくいかない」(自民党幹部)という負の連鎖は、安倍晋三元首相の国葬を巡るボタンの掛け違いから始まった。
自民党が勝利した参院選から間もない7月14日、首相の記者会見がセットされた。首相は3日前に党総裁として会見したばかり。この日の主眼は安倍氏の国葬を表明することにあった。銃撃事件からわずか6日後のことだ。
国葬の理由として、首相は会見で①憲政史上最長の8年8カ月にわたり、卓越したリーダーシップと実行力で首相の重責を担った、②東日本大震災からの復興、日本経済の再生、日米関係を基軸とした外交の展開などの功績、③国際社会からの極めて高い評価と国内外の幅広い哀悼の意──を挙げた。
そのうえで、国葬は内閣府設置法で定められた同府の所掌事務の一つであり、閣議決定で実施できると説明。「内閣法制局ともしっかり調整した」と強調した。しかし、この政府見解には専門家の間に異論もあり、法的根拠への疑念がつきまとったのは周知の通りだ。
軽く見た旧統一教会問題
しかも、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は7月11日の時点で、銃撃事件の容疑者の母親が会員だと認め、安倍氏に関しても「友好団体が主催する行事にメッセージが送られてきたことがある」と明らかにしていた。首相は国葬を決断するにあたり、旧統一教会の問題を軽視したのではないかという疑問が浮かぶ。
結果的にはこれが最初のつまずきだった。旧統一教会と自民党の関係をメディアは連日のように報じ、一方では新型コロナウイルスの感染が拡大して、風向きが変わり始めた。首相は9月上旬とみられていた内閣改造・自民党役員人事を8月10日に前倒しし、それがさらに裏目に出る。
改造では教団側との関わりが判明した7人の閣僚を交代させたものの、再任した山際大志郎経済再生担当相に新たな事案が次々に発覚。自民党の萩生田光一政調会長も、参院選前の6月に候補者を連れて教団の関連施設を訪問したことが報じられ、釈明に追われた。「社会的に問題が指摘されている団体との関係を厳正に見直す」と言うばかりで、過去を本気で問おうとしなかった首相の責任は重い。これでは人事が政権浮揚効果を生むはずもない。
読み違いは続く。自民党は「党として組織的な関係は一切ない」(茂木敏充幹事長)と繰り返していたが、世論の批判は一向に衰える気配がなく、焦った首相は8月下旬、「もう一段踏み込んだ対応」を指示。自民党はようやく9月8日、党所属国会議員179人に旧統一教会や関連団体との接点があったという「点検結果」を公表した。それすら議員の自己申告ではボロが出るのが当たり前で、茂木氏は追加公表を約束せざるを得なくなった。
しかも、岸信介元首相から3代に…
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週刊エコノミスト
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