岩盤保守層も「岸田」離れ 分断深めた国葬強行の末 平田崇浩
有料記事
世論の賛否が割れる中、岸田文雄首相は安倍晋三元首相の国葬を強行した。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題とも絡んだ反発の広がりは想定外だったのかもしれない。国葬批判は一過性のもので、時がたてば収まると高をくくっているようにも見える。
下落した内閣支持率はいずれ底を打つ。2年後の自民党総裁選をにらみ、最大派閥・安倍派の歓心を買っておいた方が得策。そうした岸田首相の思惑とは裏腹に、安倍政権を支持した保守層が岸田政権から離れる兆しも見え始めた。
「若低老高」の支持崩れる
国葬10日前の9月17、18日に毎日新聞が実施した全国世論調査で岸田内閣の支持率は前月の36%から29%まで下落した。同じ調査で、安倍元首相の国葬に対する賛成は27%。この数値だけを見れば、内閣支持層と国葬賛成層はほぼ重なるのではないかとの推測も可能だが、実は微妙に異なる。
岸田内閣の支持率を年代別にみると、若年層で低く、年齢が上がるにつれて高くなる「若低老高」の傾向が続いてきた。だが、この8、9月に支持率が急落すると、どの年齢層でも満遍なく低い「若低老低」に変化。若者にも中高年にも嫌われたようである。
これに対し国葬賛成の回答は、18~29歳38%▽30代35%▽40代29%▽50代31%▽60代23%▽70歳以上17%──と総じて低い中ではあるが明確に「若高老低」となっている。これは実は安倍内閣の支持率に見られた傾向だ。
安倍政権は不祥事などが批判されるたびに内閣支持率が下がり、3割程度で底を打っては盛り返した。その「3割」を安倍元首相の岩盤支持層と考えるなら、その支持基盤は「若高老低」構造に支えられていたと見ることができる。
今回の国葬賛成層はまさに安倍政権の岩盤支持層と重なるという仮説が提示できよう。注目されるのは、29%まで落ち込んだ岸田内閣の支持構造が安倍内閣の岩盤支持層と若干ずれている点だ。国葬賛成層に限れば内閣支持率は67%に跳ね上がるが、国葬賛成層の29%が岸田内閣を支持しないと答えたことをどう考えるか。
急落する前の岸田内閣支持率に見られた「若低老高」は、かつての自民党政権で一般的だった支持構造であり、政治や社会の現状を肯定的に評価する中高年層に支えられた保守本流政権の安定構造だったとの見方ができるだろう。
日本社会の分断が進んだ安倍政権から菅義偉政権を経て岸田政権へと移行する過程で、国民の統合による社会の安定を志向する本来の保守政治を岸田首相に期待するムードが生まれ、参院選で与党が勝利した7月まで内閣支持率が5割前後で推移する安定した政権運営につながったのではないか。
しかし、岸田首相は安倍元首相の不慮の死を、保守層の支持を固める機会と捉えた。その結果が国葬の強行であり、社会の分断を癒やす保守本流政治への回帰を期待した「老高」の支持構造がこれによって崩れることになった。一…
残り924文字(全文2124文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める