日中国交正常化50年で気勢 関係改善はまだ手探り 及川正也
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日本と中国が国交を樹立してから50年を迎えた9月29日、東京・紀尾井町のホテルニューオータニで開かれた記念レセプションは盛況だった。十倉雅和・経団連会長が委員長を務めた実行委員会が主催する民間主導の形式だったが、同ホテル最大の宴会場「鶴の間」には政官財などの各界から約800人が詰めかけた。尖閣諸島や台湾問題、新型コロナウイルス感染症の影響もあって祝賀ムードは高まらず、日中首脳の姿もなかったが、それでも日中関係の重要性をアピールする場にはなった。
それを印象付けたのが、習近平・中国国家主席が寄せた祝電だ。代読された祝電で習氏は「私は中日関係の発展を非常に重視しており、首相とともに、時代の潮流に従い、新しい時代の要求にふさわしい中日関係を構築するようけん引していきたいと思います」と述べた。特筆すべきは、主語に中国共産党や中国政府ではなく、「私は」とした点である。
直前まで習氏がどういう形式でどんな内容のメッセージを発するかは不明だった。日本政府内にはビデオメッセージでの「登場」を期待する声もあったが、「形式はともあれ、習氏が日中関係改善へ号令をかけたと受け取れる」(日中外交筋)と歓迎の声も聞かれる。
対中強硬派に「苦言」も
乾杯に立った河野洋平元衆院議長のあいさつにも、日中関係をないがしろにできないという強い意志が反映されていた。日中の国交正常化と平和友好条約(1978年締結)の重要性を指摘したうえで「いろんなことを言うやつがいるけれども、我々は両国の友好を促進し、日中ともども世界の平和のために、おおいに頑張りたいと考えておりますことを改めて誓い合いながら杯を上げましょう」。
河野氏の歯に衣(きぬ)着せぬアドリブだったが、直前には場を盛り上げる「演出」もしている。十倉氏や祝辞を述べた林芳正外相、福田康夫元首相、二階俊博元自民党幹事長、孔鉉佑・駐日中国大使を壇上に呼び上げ、日中外交に長く携わる重鎮たちがそろい踏みするシーンをつくった。河野氏は後に「前もってそれぞれに声を掛けていた。みんなが並んだところで勢いづいて、少し口が悪くなってしまった」と周辺に漏らしている。
習氏の祝電も、河野氏のあいさつもともに共通の伏線がある。1カ月余り前の8月17日に中国・天津で行われた秋葉剛男・国家安全保障局長と中国外交担当トップの楊潔篪(ようけつち)共産党政治局員の会談だ。米国のペロシ下院議長が台湾を訪問し、対抗して中国が軍事演習を実施した直後のタイミングだった。日中外交筋によると、こんなやりとりがあったという。
秋葉氏「演習では中国軍のミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾した。極めて危険な行為だ」
楊氏「挑発しているのは米国だ。演習は日本を想定したものではない。日本は関係ない」
秋葉氏「現実に日本のEEZに落ちている」
楊氏「日本のEEZを狙って発射したわけではない」
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週刊エコノミスト
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