台湾情勢は「新常態」に 岐路に立つ曖昧戦略 鈴木洋之
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8月2日のペロシ米下院議長の台湾訪問後、ワシントンDCの国際政治専門家の間では、今後の台湾情勢の「ニューノーマル」(新常態)が、いかなる意味を持ち、どのような方向に向かっているのか、ホットな議論となっている。
米国は1979年、いわゆる「一つの中国」政策のもと、北京の中華人民共和国(中国)との外交関係を樹立。中国政府を中国唯一の合法政府と認め、台湾の中華民国政府との同盟関係を解消した。他方、台湾の法的な独立を能動的に支持しない立場をとりつつも、台湾関係法によって台湾防衛に寄与し続けることを約束した。
そして、米国が軍事的に台湾に介入する可能性を残すことで中国の台湾侵攻を抑止しつつ、介入しない可能性も残すことで台湾の先鋭的な動きも抑止する、という政策を採った。これは二重の抑止が目的の、台湾に対する「戦略的曖昧」政策と呼ばれる。
足元ではペロシ議長の訪台を機に、米国の多くの議員や知事が台湾を訪れ、台湾を「事実上の独立国」とみなすような動きを強めている。一方中国は、台湾を包囲するような大規模な軍事演習を実施し、中台間の中間線を無視するような動きも活発化させ、互いのレッドラインを試すかのような挑発を繰り返すといった様相に。これがニューノーマルというわけだ。
強硬姿勢は国内向け
現状ワシントンでは、米中両政府とも、足元で大きなリスクは発現しないとの見方が大勢だ。秋には両国それぞれ、国内のイベント、米国中間選挙と中国共産党大会がある。それを前に、両国とも国内向けの強気姿勢をまずは維持。あくまで「一つの中国」「戦略的曖昧」政策を崩さない前提で、互いに、サラミを薄く切るように小さな動きから少しずつ地域のバランスを変化させる“サラミスライス戦法”の応酬にとどまる、という見方だ。
とはいえリチャ…
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週刊エコノミスト
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