日本人のノーベル賞受賞を喜べるのも今のうち
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海外で研究業績を上げる日本人もそのうち払底する/119
今年のノーベル物理学賞は、「量子もつれ」と呼ばれる現象を実証するなどした米欧3氏に決まった。一方、昨年はコンピューターを用いて地球の気候を再現する「気候モデル」を確立した真鍋淑郎(まなべしゅくろう)博士が受賞したが、実はノーベル物理学賞がこうした応用分野に与えられる例はあまり多くなかった。加えて、地球科学分野のノーベル物理学賞受賞は、地球上層大気の研究を行って「アップルトン層」を発見した英物理学者アップルトンが1947年に受賞して以来、実に74年ぶりのことであった。
そもそもノーベル物理学賞は、物理学の基本原理の研究に与えられることが多く、身近な地球の現象に光が当たることはまずなかった。気象や地震、噴火といった地球の現象は、さまざまな要素が複雑に絡み合っており、単一の原理で説明することが不可能なため、授賞理由として研究を特定することが難しいというのも理由の一つである。
もともと気象学は物理学を駆使して成立する科学だが、長い間ノーベル物理学賞の対象分野ではないと思われていた。そうした中で真鍋博士の理論は、気候変動解析の基礎を作った点で世界中の評価を得られる画期的な業績であった。さらに、ノーベル賞は社会に貢献する業績に与えるべきものとする近年の傾向から、地球温暖化問題を解決する物理学が評価されたのは当然の流れともいえる。
変わらない研究環境
真鍋博士のノーベル物理学賞にはもう一つ、日本の科学教育にまつわる大きな課題が横たわっている。愛媛県出身の真鍋博士は東京大学大学院で博士号を取得した後、1950年代から気象研究を開始した。58年に27歳で渡米し、大気の二酸化炭素が増加すると地上温度が上昇する現象を世界で初めて数値で示した。75年に米国市民権(国籍)を得て、現在もニュージャージー州在住である。
このように、博士はノーベル物理学賞につながるキャリアのほとんどを米国で築いた。米国籍を選んだ理由について、博士は受賞後にこう語った…
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週刊エコノミスト
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