家計直撃「食品高」年内の値上げ品目数は累計2万超 飯島大介
円安や原油価格高騰などを背景に、今年10月は過去30年でみても前例のない規模の値上げが行われた。>>特集「円安・物価高に強い200社」はこちら
10月の値上げ品目数はバブル崩壊後最多
食品の値上げラッシュが家計を直撃している。
上場する主要飲食料品メーカー105社が実施した10月の値上げ品目数は6699品目に上った。さらに、11~12月に予定されている値上げも含めると、年内の値上げ品目数は累計2万665品目に上る。
これまでも、食品の「値上げラッシュ」といわれる事態は度々あった。2021年秋にも、食用油関連やパンなどが一斉に値上げしたことで「値上げの秋」と話題になったほか、08年には大手各社でビールを一斉値上げした。
しかし、今回の値上げはほぼ全ての食品分野で実施されている。調査対象の105社のうち、8割に当たる82社が今年に入って値上げを実施しており、昨年の4倍と急増。月別でもこれまで年内最多だった8月(2493品目)から約3倍と桁違いの多さとなった。バブル崩壊後の過去30年でみても前例のない、極めて異例な規模の値上げが行われたのが10月だ。
酒類・飲料が約4割値上げ
10月の値上げを食品別にみると、最多は酒類・飲料で2991品目、10月単月のうち約4割を占めている。このうち、アサヒグループホールディングス(HD)などビール大手4社が14年ぶりに値上げを実施。いずれも税込み価格で、アサヒビール「スーパードライ」、サッポロHDの「黒ラベル」は、それぞれ220円前後から約240円に、サントリーHDの「ザ・プレミアム・モルツ」が258円から275円前後に、それぞれ350ミリリットル缶で出荷価格を引き上げる。
ジュース類では、コカ・コーラボトラーズジャパンHDが「コカ・コーラ」の希望小売価格を500ミリリットルボトルで20円引き上げ。キリンビバレッジも「午後の紅茶」などを一律20円値上げする。
2番目に多いのが「加工食品」で1819品目。特に目立つのはハムやソーセージ類で、伊藤ハムは主力の「アルトバイエルン」について、本数は減らさずに内容量を127グラムから120グラムに減量する。日本ハムも「シャウエッセン」を127グラムから117グラムに実質値上げする。
1800品目の値上げとなる「調味料」でも、キユーピーが昨年以降3回目の値上げを実施するほか、キッコーマンは焼き肉のたれ「わが家は焼肉屋さん」を02年の発売以来で初めて値上げし、400グラム入り450円から495円に引き上げた。
プライベートブランドも
相次ぐ値上げは、家計にとって大きな打撃だ。当社の試算では、今年の食品値上げによる1世帯(2人以上)当たりの家計負担額は月額5730円、年間では約7万円の追加負担が発生する見込みで、消費税2%の増税に相当する。
こうした中、注目を集めるのがスーパーなどの独自商品「プライベートブランド(PB)」だ。食品メーカーの自社ブランド商品の値上げが続く中、割安でお買い得なPBは物価高にあえぐ家計にとって強い味方。例えば、イオンが展開するPB「トップバリュ」は、「生ビール」が350ミリリットル缶で税込み184円。サッポロビールが製造を担うPBで、今月値上げした同社の「黒ラベル」よりも約60円安い。
このような背景から、PB商品の売れ行きは非常に好調という。イオンは21年9月、「トップバリュ」ブランドの食料品約3000品目について「価格凍結宣言」を発表。その結果、価格を据え置いて以降PBの売り上げは品目により前年比で10%以上増加したものもあり、集客力の中心となっている。
そのため、PBの商品拡大は集客力を高める上で他社も注力しており、セブン&アイHDは新たなPB「セブン・ザ・プライス」を9月末からスタートした。第1弾となる食パンは5~8枚切りで税込み105円に設定している。
ただ、こうしたPB商品でも価格の維持や据え置きといった戦略の見直しを迫られている。イオンは7月、「トップバリュ」商品のうち、マヨネーズを170円から213円、カップ麺を62円から73円に値上げ。今年6月末には「7月以降も価格維持に努める」と、これまで前面に押し出してきた「価格凍結」の文言からはトーンダウンした。
PB「みなさまのお墨付き」を展開する西友も、「がんばるプライス」と称した価格維持から一転、7月には対象品目や値上げ幅については非公表ながら、一部商品の値上げを明らかにした。両社とも、パッケージの簡素化や生産の集約、供給網の見直しなどで価格維持を図ってきたが、急激な物価高を前に「白旗」を上げた格好だ。
電気、ガス代も
また、明治・雪印メグミルク・森永乳業の乳業大手3社が、パック牛乳などで値段を一斉に引き上げる。飼料価格の高騰による生乳取引価格の上昇が主な理由で、1リットルパック牛乳の販売価格はこれまでの100円台後半から200円台前半となる可能性が高い。パック牛乳は消費期限が短い上、購入頻度が高いだけに、価格改定後の値札が消費者に与える心理的インパクトは金額以上に大きい。ベビーフードや粉ミルクなども11月以降に値上げが予定されており、子育て世代を中心に家計負担が一層増加する可能性がある。
足元では、政府による輸入小麦価格の据え置きに加え、下落が続いたドル・円相場に対する政府・日銀の介入など、今年の主だった値上げ要因について沈静化が期待できるものもある。実際、9月末時点で、11月の値上げは5月以来初めて1000品目を下回っているほか、12月も135品目と小規模で、値上げラッシュは10月を境にピークアウトする見通しだ。
しかし、10月から大幅な価格引き上げが予定される電気・ガス代など、新たな値上げ要因も出始めている。仕入れ価格の上昇分について価格転嫁が十分でない企業は、円安や原油価格に加え、電気代などのエネルギー価格が大きく崩れた場合、来年以降に再び値上げを実施する可能性がある点には注意が必要だ。
(飯島大介・帝国データバンク情報統括部主任)
週刊エコノミスト2022年11月1日号掲載
円安・物価高に強い企業 食品値上げ 対象は年間2万超の品目に 家計を直撃する「食品高」=飯島大介