教養・歴史書評

諸説ある能楽史を分かりやすく論じた新書=今谷明

 前回の書評で顔を出した芸能に、近世武家の式楽であった能楽がある。室町という時代が生んだ卓越した文化として、水墨画と並び称せられるだけでなく、ギリシャ悲劇に匹敵する世界最高の演劇との評価もある。

 中村雅之著『教養としての能楽史』(ちくま新書、924円)は、上のように言及される能楽の形成史、いわば成立・展開について系統的に論じた貴重な啓蒙(けいもう)書である。評者が学生の頃は、能勢朝次著『能楽源流考』(岩波書店)といった大冊の研究書があったばかりで、本書のような新書版の解説書などはなかった。

 能楽(謡曲)の起源は「猿楽」説と「田楽」説の両者が複雑に絡み合っているらしく、古来種々の系統説が言われてきた。大陸から律令時代に「散楽」が伝来し、言い訛(なま)って「猿楽」と称されたといい、猿楽は能の正統な起源であると見なされてきたのが有力説。しかし平安時代には農村で「田楽」が興隆し、都市住民や公家にその鑑賞が広がり、ついには1096年に多くの人々が楽と踊りに熱狂した「永長の田楽騒動」なる大事件が京都で発生した。元来田植えの芸能だった「田楽」が、謡曲のもう一方の源流とされる所以(ゆえん)である。

 いずれにせよ、将軍・足利義満の保護下に、観阿弥・世阿弥という父子の俳優が喧伝(けんでん)され、後者が『風姿花伝』という卓越した芸論を遺(のこ)したことが、能楽成立の一代契機となったことは否定されない。

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