教養・歴史書評

創造性にあふれた人になるための助言の書 孫崎享

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 音楽やスポーツの分野でしばしば「天才」という言葉に遭遇する。では例えば、チェロ演奏家のヨーヨー・マは天才と呼べるのか。

 書店で今売れている本にクレイグ・ライト著『イェール大学人気講義 天才 その「隠れた習慣」を解き明かす』(すばる舎、2640円)がある。著者はエール大学名誉教授で、本は彼の講義が基礎になっている。エール大学は米国のトップ大学の一つであり、学生は「どうすれば天才になれるかを知りたがって」、彼の講義に出たようだ。

 ライト教授は天才(genius)の定義に厳しく、天才を「精神力が並外れていて、その人の業績や見解が、文化や時代を超えて社会を大きく変革する人を指す」とする。また「才能はあるかもしれないが、他人がそれまでにつくり上げたもので勝負する人は天才ではない。カギとなるのは想像力と創作物である。ベートーベンは天才と考えていいが、ヨーヨー・マはそうではない」としている。

 彼は徹底して「創造力」を重視している。

 多くの人はIQや学校の成績と天才との関係に関心を持つ。彼はIQテストに否定的だ。IQについて次のように述べる。「IQテストには論理性を評価する項目があり、数学や言語の法則を採用している。しかし、IQテストのどこにも、クリエイティブな回答や回答の可能性を広げたことに与えられる点数はない」

 さらに彼は学校の成績とその後の歩みに言及する。そして「学校の成績は天才は言うに及ばず、成功の信頼できる指標ではない」と指摘する。

 私たちのほとんど誰もが「天才」と呼ばれる部類には属していない。ではこの本は無益なのか。そうではない。この本はいかにすれば創造性にあふれた人間になれるかについての助言である。「好奇心のかたまり」「他人との違いを活用せよ」「反逆、不適応 リスクを恐れない」「あちこち幅広く嗅ぎまわる」「逆転の発想をせよ」「運をつかめ」。これらは各項目の見出しであ…

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週刊エコノミスト

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