福利厚生がないうえ下請法による保護もない「常駐フリー」=永江朗
出版業界では、さまざまな人がフリーランスとして働いている。高い報酬で引く手あまたのデザイナーやカメラマンはごく一握り。劣悪な条件で働く校正者や編集者、ライターも少なくない。なかでも「常駐フリー」と呼ばれる人びとは、出版社や編集プロダクションに常駐するなど社員と同じような働き方をしているにもかかわらず、待遇面では社員と差がある。
出版業界のフリーランスで組織する出版ネッツ(正式名称:ユニオン出版ネットワーク。出版労連加盟)は、このほど「常駐フリーアンケート調査&聞き取り調査結果報告書」を発表した。同報告書からは、常駐フリーが置かれている厳しい状況が浮かび上がる。
就業先の指揮命令下で就業時間や就業場所を拘束されるなど、常駐フリーは雇用労働者(社員)とほとんど変わらないような働き方をしている。パソコンなど仕事に使用する機器も就業先が用意することが多い。
フリーランスというと自由に働けるというイメージがあるが、実際は働く側の意思で変更できる範囲は狭く、むしろ就業先(出版社や編集プロダクション)側の自由が大きい。
報告書の「あればよいと思う権利・制度について」というアンケート項目の1位は「(社員と同じ)健康保険(傷病手当金、出産手当金あり)・厚生年金への加入」で、次いで「雇用保険(失業給付、教育訓練給付、育児休業給付、介護休業給付等あり)への加入」「労災保険の適用(社員と同じく保険料は会社負担)」となっている。裏返せば、これらが受けられないのがフリーランスの現実であり、出版社・編集プロダクションにとっては労働力を安く使えるということでもある。
常駐フリーのなかには、労働者としての保護が受けられないだけでなく、下請法の保護も受けられない人がいることを同報告書は指摘している。契約のかたちによって、制度のはざまに落ち込んでしまうのだ。国は2021年に「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を策定したが、常駐フリーにとっては十分機能しているとは言いがたい。制度の早急な改善が望まれる。
この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。
週刊エコノミスト2022年11月22日号掲載
永江朗の出版業界事情 「常駐フリー」の厳しい現実が明白に