深刻化する官邸の機能不全 司令塔不在 途絶える連携 伊藤智永
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野田佳彦元首相が行った安倍晋三元首相に対する国会追悼演説は、冒頭と締めくくりで2度、首相の「重圧」と「孤独」に触れた。岸田文雄首相は、自分も今まさに同じ苦しみを味わっていると聞いただろうか。あるいは定評ある「鈍感力」のせいで、まだピンとこなかっただろうか。首相周辺の観察では、その間で揺れているようだ。
散々な不評に見舞われた安倍氏の国葬が終わり、臨時国会に臨むにあたって、岸田氏は側近議員に漏らしたそうだ。「こういう時こそ守りに回っちゃダメなんだ。攻めに出ないと」。開成高校の同窓生は「物静かに見えるが、元高校球児らしく負けん気が強い」と評する。だが、反転攻勢を期していたにしては、そのための入念な作戦も準備も十分ではなかった。物価高騰対応を柱とする総合経済対策の取りまとめは与党の攻勢に押し込まれ、政局の焦点である世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題では河野太郎消費者担当相に主導権を取られ、国会が始まってもいいところがない。
表向き強気を装いながら、内心不安と焦りに駆られている様子は随所にうかがえる。「今日はどうでしたか」「どうしたらいいでしょう」。岸田氏は国会審議が終わると、ベテラン政治評論家たちに自ら電話を掛け、感想や助言や激励を求めるという。「自民党内や官邸内に、気軽に相談できる相手がいないんだろう。社長がバーのカウンターで愚痴をこぼすようなものさ」(某評論家)
国会で謝罪の不名誉
旧統一教会問題には、強気と弱気のまだら症状が顕著に出た。例えば、与党からも「瀬戸際大臣」と見限られていた山際大志郎前経済再生担当相の更迭。引っ張るだけ引っ張ったあげくの辞任は、与野党双方から「いいタイミングではなかった」(世耕弘成参院自民党幹事長)と遅すぎた決断を批判され、首相が国会で謝罪する不名誉を余儀なくされた。
教団に対する質問権行使を巡っては、河野氏と主導権争いを演じた。昨年、自民党総裁の座を競い、次の総裁選でもライバルとなる可能性が高い。岸田氏にすれば、権限の小さいポストで閣内に取り込み、勢力拡大を封じる人事だっただろうが、河野氏は旧統一教会問題で消費者庁にマスコミ受けする顔ぶれの有識者検討会を設置。文部科学省所管の宗教法人法について、教団への質問権行使・解散命令請求・法改正といった「攻め方」まで盛り込んだ提言を短期間でまとめた。一種の越権行為だが、「信教の自由」の原則を前に慎重姿勢を崩さない官邸を尻目に、問題解決に向けた「内閣の切り込み隊長」というイメージ作りに成功したのは間違いない。
慌てた岸田氏は衆院予算委員会が始まる10月17日、永岡桂子文科相に「質問権を使った調査を進めるように」と指示し、お株を奪い返そうと反撃に出たが、出遅れの泥縄は否めない。早くも予算委2日目に、野党から解散請求の要件を突かれ、いったんこれまでの政府見解を踏襲すると答えながら、翌日の参院予…
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週刊エコノミスト
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