求心力弱まる米バイデン政権 内政動向を注視する日本政府 及川正也
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「バイデン対トランプ」の新旧大統領対決の構図となった11月8日の米中間選挙は、与党・民主党が上院では優位を維持したものの、下院では過半数確保を巡る攻防が続く。バイデン大統領は予想された野党・共和党の「圧勝」を阻止したと強調したが、政権運営が厳しくなるのは必至だ。日米関係への影響も避けられない。
「日米同盟は揺るぎがなく、その重要性について、民主党、共和党を問わず共通の認識が存在していると考えており、選挙の結果が日米関係の重要性に影響を及ぼすことはないと考えている」。米国では投票が続く9日午前の記者会見で松野博一官房長官はこう強調した。「共和党優勢」が伝えられる中での発言だった。
日米同盟強化は変わらず
選挙期間中には、共和党内から外国での紛争に関わらない孤立主義の外交政策を訴える候補者が「バイデン外交」の転換を求めたが、バイデン氏はこれを一蹴。外務省内では「民主党が敗北しても、同盟国や友好国を重視するバイデン政権の外交政策に大きな変化はない」(幹部)とし、日米同盟強化の路線は変わらないとみている。
岸田文雄首相は11月中旬から東南アジア諸国連合(ASEAN)、東アジアサミット、主要20カ国・地域(G20)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の各首脳会議出席のため東南アジアを歴訪。その際、日米首脳会談の実現を最優先にし、13日にカンボジアで会談した際に日米同盟の強化を再確認したことで目的を果たした。
とはいえ、懸念がないわけではない。外務省幹部は「世界で最大の不安定要因の一つは、米国の内政だ」と漏らす。その内政の行方次第で外交も変わるという。
具体的には、どういうことか。
人工妊娠中絶、同性婚、人種的少数派の差別是正措置をめぐる社会の分断が深まっている。これらの権利を否定する風潮が高まれば、同じ民主主義の同盟国だけでなく専制主義の国から「他国の人権状況を非難する権利が米国にあるのか」と反撃され、人権重視の米国の立場を弱めることになる。
経済政策では、ラストベルト(さび付いた工業地帯)と呼ばれる中西部や東部の保守政治家が国内製造業の保護のために中国との貿易を制限する政策を掲げている。もし、米国が保護政策を強め、中国との貿易戦争に拍車をかければ、失った市場を求めて日本を含めた同盟国にも余波が及ぶ。中国との貿易にすら介入されかねない。
ウクライナ政策にも修正を迫る声がある。共和党のマッカーシー下院院内総務は「景気後退のふちにある国民がウクライナにいくらでもカネを使っていいとは言わない」と述べ、支援縮小を示唆している。侵略を受けた国の窮状を二の次にして「米国第一」を優先すれば、米国に対する信任は著しく損なわれるだろう。
民主党に代わって共和党が議会の主導権を握った場合、トランプ氏が後ろ盾となっている「MAGA」(米国をもう一度偉大に)運動を率いる極右派が、歳出削減や不法…
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週刊エコノミスト
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