国際・政治東奔政走

統一選前に「岸田降ろし」も 政権を左右する新法の動向 人羅格

葉梨康弘氏の後任となった斎藤健法相の認証式を終えて首相官邸に戻る岸田文雄首相(11月11日)
葉梨康弘氏の後任となった斎藤健法相の認証式を終えて首相官邸に戻る岸田文雄首相(11月11日)

 政権与党が守勢に回っている臨時国会は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の被害者救済に向けた新法の制定が焦点となっている。

 岸田文雄首相が対応を誤れば、来春の統一地方選を前に政権危機に直面しかねない局面だ。参院選勝利でささやかれた「黄金の3年」どころか、短命内閣に転落するかの瀬戸際である。

重なる判断ミス

「短期間に相次いで閣僚が辞任する事態は、リクルート事件の時の竹下内閣や民主党の野田内閣をほうふつとさせる」。自民党の石破茂元幹事長は自身のブログで今月、岸田政権をこう評した。

 1989年に退陣した竹下登内閣はリクルート事件や消費税導入に直撃された。一部世論調査で支持率が約4%に落ち込み、発足から1年7カ月で退陣に追い込まれた。石破氏の記述は政権の「短命」を念頭に置いたものだろう。

 事実、このままでは、首相が2024年秋の次の自民党総裁選を乗り切ることは不可能だろう。いずれかの段階で衆院解散の勝負に出ない限り、もはや立て直しは難しい。

 立憲民主党の野田佳彦元首相は「サミット後解散」の可能性に言及した。確かに首相の地元で来年5月に開催されるG7(先進7カ国)の広島サミット(首脳会議)後は、民意を問いやすい時機だ。

 だが石破氏の指摘通り、岸田政権は衰えのペースが速い。複数の世論調査で内閣支持率が3割を切った。展開次第では、自民党の地方組織から統一選前に退陣要求が噴出してもおかしくない。

 これまで「聞く力」として世論が好意的に見ていた首相のあいまいさが逆に「後手後手」「優柔不断」と失望を招いている。寺田稔前総務相の「政治とカネ」を巡る疑惑も、いたずらに傷口を広げた。

 葉梨康弘前法相が「法相は死刑のハンコを押す時だけトップニュースになる」との発言で更迭された際の対応もそうだ。首相は続投で乗り切ろうとし、一夜で方針を転換した。記者団から当初の判断ミスを指摘され「私から説明責任を果たすよう大臣に指示したところ、辞任の申し出があった」と「説明責任」を6度も繰り返して釈明に追われた。

 葉梨氏発言は、死刑という人命に関わる手続きを冗談に用いた点でアウトであり、説明責任の問題ではない。仮に葉梨氏が続投して死刑を執行したら、「ニュースにするためハンコをついた」と言われただろう。「岸田官邸」はそこがピンと来なかったらしい。

 山際大志郎前経済再生担当相の更迭遅れを発端に、世論が深めているのは首相の政治的直感やリーダーとしての資質への疑問である。

 官邸と自民党執行部の呼吸も合わない。返り血覚悟で旧統一教会問題に斬り込む盟友が党側にいない。頼みの茂木敏充幹事長は当初「党と教団は一切関係ない」と言い切った。萩生田光一政調会長はこともあろうに更迭後の山際氏を党のコロナ対策本部長に起用した。

 そしていま、政権は被害者救済法案の決着を迫られている。マインドコントロールされた信者の寄付行為をどう規制…

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週刊エコノミスト

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