「禁じ手」の菅副総理入閣案 内閣改造模索も手詰まり必至 伊藤智永
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年末・年始の内閣改造・自民党役員人事が取り沙汰されている。岸田文雄首相は「私自身、そうしたことは全く考えていない」と否定した。「いまは国会に専念しなければいけない。年末に向けて防衛3文書(国家安全保障戦略・防衛計画の大綱・中期防衛力整備計画)改定をはじめさまざまな政治課題に専念しなければならない」のでそう答えるしかないにしても、閣僚の辞任ドミノはやみそうになく、政策決定も国会運営も停滞している。むしろ政府・与党内から「こうなったら人事刷新で局面を変えてほしい」という突き上げが起きている現状だ。
危険と紙一重の「改造」
本格政権は思い切った政策を打ち出して政権を浮揚させるのが王道である。内閣支持率が下がっている時に、目先を変えようとして苦し紛れに「逃げ」の内閣改造を打つと、政権の体力はますます落ちるのが政界の経験則だ。それでも、そんなことは百も承知、危険を覚悟で内閣改造でもしなければ、負のスパイラルを止められないではないかというわけだ。
だが、仮に岸田首相が内閣改造を企てても、果たして実行できるだろうか。新たに任命された松本剛明総務相は就任早々、パーティー収入を巡る疑惑で週刊誌報道の標的となった。今の自民党にたたかれてもほこりの出ない自信のある議員がどれだけいることか。
来春の統一地方選は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題を巡る逆風で自民党県議・市議の苦戦が予想され、落選が広がれば「岸田降ろし」が始まりかねない。短命で終わる可能性があるなら、やはり入閣を断る議員もいるだろう。希望者は一度でいいから大臣になっておきたい顔ぶれが増える。「滞貨一掃内閣」では、何のための改造か分からない。
人事圧力にあおられて改造断行が既定路線化し、揚げ句にやっぱり見送りとなれば、「人事もできない首相」の権威は地に落ちる。菅義偉前首相が昨年8、9月、衆院解散と自民党総裁選の先送りを狙って、そのための党役員人事に踏み切ると決断しながら、党内の抵抗に遭って断念を余儀なくされ、一気に退陣へ追い込まれたのは記憶に新しい。岸田氏が内閣改造を否定したのは、建前だけでなく、流れが作られてしまうと逃げ場を失い、菅氏の轍(てつ)を踏みかねないからである。
11、12月に内閣改造を行ったのは昭和の定期異動の名残で、平成以降は夏か初秋に行う慣例が定着した。年末・年始の組閣は、衆院選や首相辞任、連立の組み替えなどに伴う例外的な事態である。つまり、もし岸田氏が今、内閣改造を行えば、それだけ追い詰められていることになる。1月に内閣を改造した旧民主党の菅直人政権と野田佳彦政権は、共に1年余りの短命に終わった。
今年8月の内閣改造から4カ月足らず。踏み切る場合は、思い切った捨て身の新体制を披露できなければ、人事の失敗を認めるだけに終わる。この間、政権の弱点はいくつも明らかになった。中でも官邸の機能不全は深刻だ…
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週刊エコノミスト
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