ANA労使へヒアリングを重ね、コロナ禍を切り抜けた姿に迫る 藤原秀行
有料記事
『雇用か賃金か 日本の選択』
著者 首藤若菜さん(立教大学経済学部教授)
社会的危機下に「雇用を支える適正な仕組みが不可欠」
新型コロナウイルスの感染拡大は旅客需要を激減させ、世界の航空業界に深刻な打撃を与えた。本書は全日本空輸(ANA)など国内外の航空会社が生き残りをかけ、いかに従業員の人数や労働時間の長さを変化させ、雇用を維持したかに迫った。
「日本では、政府がコロナの影響で事業活動縮小を余儀なくされた企業に雇用調整助成金(雇調金)を支給していることに対して『成長産業への労働移動を阻害している』と批判が出るなど、雇用を守ろうとした動きに厳しい意見が多いように感じています。そこでなぜ企業は雇用を守ったのか、海外と比べながら理由を冷静に調べたいと思いました」
著者は労使関係論や女性労働論の専門家。前著では人手不足といった課題に直面して悩む物流業界を綿密に取材し、窮状を子細に解説したことで評判を呼んだ。本書もANAの経営陣と労働組合双方の関係者にヒアリングを重ね、労使が難しい決断をする姿を明らかにしている。
「ANAは労使関係研究の世界では、労組と経営幹部がその時々の経営課題について緻密に話し合う良好な関係を築いていることで有名です。そんな労使がコロナ禍を切り抜けるためにどんな協議をしていたかを知りたくて研究を進めました」
雇調金は雇用保険料を原資に、企業が従業員に支払う休業手当などの一部を助成する制度。緊急事態で賃金維持よりまず失業を食い止めることを優先している。ANAは整理解雇を行わず、雇調金を活用しつつ、外部に委託していた業務を内製化したり、兼業を認めたりと雇用維持に奔走した。
英国やドイツの航空会社も雇用を重視して賃金を下げたが、米国は労組が賃金水準維持を優先した。ただ、いずれの先進国でも政府が企業に雇用維持を呼び掛け、賃金補填(ほてん)策を打ち出す共通点が見られた。
「ANA…
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週刊エコノミスト
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