教養・歴史著者に聞く

埼玉県蕨市に暮らすクルド人2000人の現実と希望を記録 北條一浩

『ぼくたちクルド人 日本で生まれても、住み続けられないのはなぜ?』

著者 野村昌二さん(ノンフィクションライター)

片隅で生きている人々がいる まず知ることから始めよう

 日本は外国人受け入れに消極的といわれる。それでも国際情勢の中では安定した国と見られており、さまざまな理由で居住地から逃れた人々がやってくることも確かだ。そんな中、ノンフィクションライターの野村昌二さんが取材し、1冊にまとめたのがクルド人の現状である。

「スリランカ人のウィシュマさんが名古屋入管で亡くなり、遺族が抗議の声を上げて話題になりました。私も関心を持って入管問題をいくつか取材する中で、仮放免(一定の条件付きで身柄の拘束を仮に解かれた状態)の人を取材したいと思うようになったんです。そして埼玉県蕨市にクルド人の方々が2000人くらいいると聞き、取材を始めました」

 そこでは、ほとんどの日本人が知らない実態が明らかになる。

「現在、在留資格をもらっている人が半数、残り半数が仮放免といわれています。仮放免は本当は働いてはいけないんですが、それでは食べていけませんから、多くは解体業などに従事しています。そうして外に出ているお父さんや若い世代の子どもたちはある程度日本語は話せますが、お母さんたちはまったく話せず、引きこもり状態になっています」

 地域の日本人との付き合いもほとんどなく、学校でもクルド人だというだけでいじめの対象になってしまう。それでもたくましく生きる姿も本書には描かれていて、ハッサン君(仮名)はその好例だ。

「ハッサン君は11歳で日本に来て、一生懸命勉強し、いま大学院進学をめざしてがんばっています。日本語はほぼ完璧に理解できます。自分より若い世代が自分たちのような思いをしなくていいように闘いたい、という意志がみなぎっています」

 ハッサン君は現在、在留資格を求めて係争中。判決はまもなく出る予定だが、厳しい結果にな…

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週刊エコノミスト

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