独りで中絶に向き合う女性を通し、一方的に道を閉ざされる普遍的恐怖を描く 勝田友巳
有料記事
映画 あのこと
社会意識の変化でどれほど性別の垣根が低くなったとしても、「男性=オス」には経験できないことがある。妊娠と出産、それに中絶もそうだ。映画界は男性が支配してきたし、中絶は宗教的、政治的に繊細なこともあって、ドラマの一要素として取り入れられても、正面から描かれることは少なかったように思う。
21世紀に入って、妊娠中絶が映画の主題としても目立ち始めた。2004年のマイク・リー監督の「ヴェラ・ドレイク」は、1950年代の英国で違法な中絶手術を手掛けた主婦が主人公だったし、07年のクリスティアン・ムンジウ監督による「4ヶ月、3週と2日」は、チャウシェスク政権下のルーマニアで、同級生の中絶のために奔走する女子学生を描いた。この2作は男性監督だが、20年「17歳の瞳に映る世界」のエリザ・ヒットマン監督は女性で、米国の17歳の少女が中絶手術を受けるまでを少女の視点から追った。
これら中絶を描いた映画、すべて3大国際映画祭の最高賞を受賞している。「ヴェラ・ドレイク」はベネチアの金獅子賞、「4ヶ月──」はカンヌのパルム・ドール、「17歳──」はベルリンの銀熊賞。そして本作「あのこと」のオードレイ・ディヴァン監督は女性で、60年代のフランスでの違法中絶が主題。ベネチアの金獅子賞を受賞した。
成績優秀な大学生のアンヌは、妊娠していることに気付く。かかりつけ医は同情はしても手は講じず、中絶とい…
残り690文字(全文1290文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める