教養・歴史アートな時間

コロナ禍の異なる物語が四つ、別々の主人公を女優1人が演じたオムニバス 寺脇 研

©T-artist
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映画 ワタシの中の彼女

 もう3年近くに及ぶコロナ禍は、わたしたちの生活を一変させてしまった。いつかは元の日常に戻れるのかもしれないにしろ、この期間を過ごした記憶は全人類の脳裏に残るだろうし、後世へ語り継がれるだけの価値を持つに違いない。

 日本映画にも、コロナ禍下の生活ぶりを背景にした作品が散見されるようになってきたが、この作品は、それを後景としてではなく真正面から捉えようとする。しかも、企画、脚本も自身でこなす女性監督・中村真夕は、女性の視点を中心に据え、社会の変貌ぶりを描いていく。もうひとつの今日の大きな課題であるフェミニズムをも射程に入れているのは明らかだ。

 全体は、4話の物語のオムニバス形式で構成されている。「4人のあいだで」のヒロインは、夫、子どもと3人所帯を持つ40代前半専業主婦。「ワタシを見ている誰か」は、リモートワーク中の30代後半独身会社員。「ゴーストさん」は、20代後半の風俗嬢。そして「だましてください、やさしいことばで」は、足の悪い老母と暮らす40代前半の盲目の女性だ。

 これを一人で全部演じるのは、最近めざましい活躍ぶりを見せている演技派女優・菜葉菜である。異なる四つの顔を、みごとに演じ切った。

 在宅勤務の夫と休校中の子どもを持て余して疲れ気味の専業主婦は、20年前の大学時代に演劇サークルで一緒だった旧友たちと公園で外飲み…… と思いきや、実は3人とも別の公園に…

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週刊エコノミスト

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