歌の無いミュージカルのような軽妙さ、ディオールラインの懐かしさ 野島孝一
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映画 ミセス・ハリス、パリへ行く
戦後まもなく。ごく普通のイギリス人未亡人が、ディオールのドレスに魅せられて、パリのディオール本店でドレスをあつらえる小さな冒険物語。笑いとペーソスにあふれたロマンチックな本作はアメリカでトップ10に入るヒットとなった。
1957年。ロンドンに住むミセス・ハリス(レスリー・マンヴィル)は、いくつかの家で家政婦を掛け持ちしながら、ヨーロッパ戦線に出撃したまま帰らぬ夫を待つ。だが、夫の戦死を伝える手紙と遺品の指輪が戻ってきた。ミセス・ハリスは落胆ぶりを見せず、親友のヴァイ(エレン・トーマス)とパブを飲み歩く。
家政婦の仕事先で、偶然ディオールのドレスを見たミセス・ハリスはたちまちそのドレスに魅せられる。500ポンド(現在に換算すると数百万円)もするという。普通なら手に入れることなどかなわぬ夢とあきらめるところだが、退くことを知らないミセス・ハリスは猛烈な勢いで金をため始める。
仕事を増やし節約する一方、懸賞やドッグレースまで手を出す。ドッグレースのエピソードが秀逸で、たいていの人は予想がはずれるだろう。ところが結局、ミセス・ハリスはかなりの金を蓄え、意気揚々とパリへ乗り込む。
だが、さすがにクリスチャン・ディオールの“城”は守りが堅かった。身なりが粗末なのを怪しまれ、つまみ出されそうになる。現金を見せて客と認めさせたまではよかったのだが、マネジャーのコル…
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週刊エコノミスト
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