教養・歴史アートな時間

歌の無いミュージカルのような軽妙さ、ディオールラインの懐かしさ 野島孝一

©2022 FOCUS FEATURES LLC.
©2022 FOCUS FEATURES LLC.

映画 ミセス・ハリス、パリへ行く

 戦後まもなく。ごく普通のイギリス人未亡人が、ディオールのドレスに魅せられて、パリのディオール本店でドレスをあつらえる小さな冒険物語。笑いとペーソスにあふれたロマンチックな本作はアメリカでトップ10に入るヒットとなった。

 1957年。ロンドンに住むミセス・ハリス(レスリー・マンヴィル)は、いくつかの家で家政婦を掛け持ちしながら、ヨーロッパ戦線に出撃したまま帰らぬ夫を待つ。だが、夫の戦死を伝える手紙と遺品の指輪が戻ってきた。ミセス・ハリスは落胆ぶりを見せず、親友のヴァイ(エレン・トーマス)とパブを飲み歩く。

 家政婦の仕事先で、偶然ディオールのドレスを見たミセス・ハリスはたちまちそのドレスに魅せられる。500ポンド(現在に換算すると数百万円)もするという。普通なら手に入れることなどかなわぬ夢とあきらめるところだが、退くことを知らないミセス・ハリスは猛烈な勢いで金をため始める。

 仕事を増やし節約する一方、懸賞やドッグレースまで手を出す。ドッグレースのエピソードが秀逸で、たいていの人は予想がはずれるだろう。ところが結局、ミセス・ハリスはかなりの金を蓄え、意気揚々とパリへ乗り込む。

 だが、さすがにクリスチャン・ディオールの“城”は守りが堅かった。身なりが粗末なのを怪しまれ、つまみ出されそうになる。現金を見せて客と認めさせたまではよかったのだが、マネジャーのコル…

残り687文字(全文1287文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事