ヴィクトリア朝に生きた挿絵画家とその妻の、単純ではない愛の物語 芝山幹郎
有料記事
映画 ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ
邦題(「ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ」)を見ると、話にきれいごとが多いのではないか、と思う人がいるかもしれない。可愛くまとめすぎているのではないか、と疑う人がいてもおかしくはない。
だが、これはそう単純な映画ではない。ルイス・ウェイン(ベネディクト・カンバーバッチ。映画のなかでは一貫してルイと呼ばれているが、題名に合わせてルイスと表記する)は実在の人物だ。ヴィクトリア朝ロンドンの上流階級に生まれている。
映画の序盤、その性格は《多方面の分野に興味を抱き、動きまわることで心の混沌を制している》とナレーションで説明される。なかなか大変な人生だが、とくに彼が惹かれているのは、実用化されて間もない〈電気〉だ。美や愛情や魅力の核には電気が流れている、と彼は考える。つまり、エーテルや霊感に通じる物質。天才肌の奇人を演じると抜群に冴えるカンバーバッチには、ぴったりのはまり役だ。
1881年、父を亡くした長男ルイスは、一家を養わなければならなくなる。発明家にあこがれ、美術教師か音楽家になることを夢見ていた彼だが、思いは叶わず、挿絵画家としてささやかな収入を得はじめる。
そんな折、出会ったのが妹の家庭教師エミリー(クレア・フォイ)だ。エミリーの出身階級は低く、ルイスよりもかなり年長だ。ルイスはルイスで、生まれつき口唇裂があり、口ひげでそれを隠してい…
残り747文字(全文1347文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める