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国際・政治 FOCUS

米中「新冷戦」否定が首脳対面会談の成果=今村卓

習近平国家主席とバイデン大統領の対面での会談実現を伝える香港の街頭ビジョン Bloomberg
習近平国家主席とバイデン大統領の対面での会談実現を伝える香港の街頭ビジョン Bloomberg

 米国のバイデン大統領と中国の習近平国家主席が11月14日、インドネシア・バリ島で、対面では初めて3時間近く会談した。その成果は会談が行われたことに尽きる。会談は両国の衝突回避のための対話継続で一致し、あまりに危険な悪化には歯止めを掛けられた。米中両国が歩み寄ったのではない。相互の認識と方針の差異を確認しただけだ。

 会談の最大のテーマの台湾問題では、バイデン氏は台湾海峡の一方的な現状変更への反対を訴え、習氏は台湾問題が中国の核心的利益の核心であり越えてはならない一線と強調した。双方とも従来の主張の応酬だが、対面で聞き合えば違いの管理と自制の機運が生じる。バイデン氏も会談後「台湾侵攻の差し迫った動きがあるとは思わない」と述べた。緊迫も少しは緩んだと評価できる。

 米国の対中ハイテク規制も、習氏は経済の切り離し(デカップリング)の強行であり経済や貿易の政治問題化だと批判したが、バイデン氏は国家安全保障の確保という目的から譲歩はしない。だが、対話からバイデン氏は中国の経済運営への危機感を読み取り、世界経済をクラッシュさせず、中国を戦争に追い込まない範囲内で、中国のデカップリング拡大という管理に進む。

 10月の中国共産党大会で異例の3期目に入った習氏は、バイデン氏との会談を通じて、過去10年間進めてきた中国の国家主義、権威主義が繁栄をもたらしたとの確信は揺るがなかっただろう。しかし対話を通じて、習氏は米国が権威主義などを進めた中国を脅威と捉え競争相手に位置付けてハイテク規制などを進めたことへの理解を深めたと思う。そこから習氏も米国や世界の反応を考慮した権威主義の管理へと今後進む可能性も考えられる。

米国にも悪影響

 米中首脳の3年5カ月ぶりの会談は、世界の2大経済大国であり、国家安全保障上の競争相手であり、相互が世界に与える影響の大きさも認識させたと思う。気候変動や食料問題など世界的な課題解決に向けて両国の高官対話を維持し、取り組みを深化することで合意したほか、ウクライナでの核兵器使用の脅しに反対で一致したことがその証左だ。世界にとっても重要な前進である。

 バイデン氏が会談後、「中国との新冷戦は必要ない」と語ったことも意味深い。会談前には米中新冷戦の中での対話との見方もあったが、それをバイデン氏が否定したのは、米中の深い経済相互依存を重視していることもあるだろう。経済関係をほぼ欠いたソ連との冷戦と異なり、中国との冷戦は急速で広大なデカップリングを伴い、米国経済への悪影響があまりに大きい。バイデン氏は習氏との対話を通じて、中国に対しては新冷戦でなく慎重で限定的なデカップリングでよいと確信したのだろう。

 ただしリアルな対話は始まったばかりである。楽観はできないが、今後は基本的な枠組みに変化が生じ始めるまで対話が続くことを期待したい。その中で日本が米国、中国との対話を通じて担える役割も大いにあると思う。

(今村卓・丸紅執行役員経済研究所長)

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