「プログラマー」が申告漏れ1位になった三つの事情 李顕史
コロナ禍で副業が認められるようになったが、個人で事業をする場合は申告漏れに注意が必要だ。>>特集「狭まる包囲網 税務調査」はこちら
1件当たり申告漏れ所得は4927万円
国税庁の2020年事務年度(20年7月〜21年6月)において、個人事業主の申告漏れ所得金額が多い業種としてプログラマーが1位になった。キャバクラや風俗業などの「常連」を押さえた形で、国税庁の発表によれば、過去10年でプログラマーが上位5業種に入ったのは16事務年度の1度しかない。
プログラマーが1位になったのも驚きだが、1件当たりの申告漏れ所得金額(4927万円)が高額になっているのも注目に値する。国税庁は過去10年の申告漏れ所得金額も公表しており、その中でも1件当たり5000万円近い申告漏れは極めて多額だ(表)。
過去にプログラマーが1件当たりの申告漏れ所得金額で上位5位に入ったのは16事務年度の1178万円で、単純比較はできないが、20事務年度はその約4倍の額となっている。この原因は、新型コロナウイルス禍で企業が副業などを認めるようになり、個人事業主が増えたことが考えられる。
支払調書から発覚
また、税務調査の精度向上もあるだろう。当局がプログラマーの申告漏れを捕捉する手法として考えられるのは、「支払調書」からの発覚だ。企業は個人事業主のプログラマーに発注し、支払った報酬から所得税を源泉徴収した場合、支払調書を税務署に原則として提出する義務がある。
プログラマーが企業から支払われた報酬を売り上げとして計上し、確定申告していれば問題はない。しかし、一定数のプログラマーが売り上げを正しく申告していないか、もしくは確定申告自体をしていないことが考えられ、この場合は支払調書から申告漏れが明らかになる。
税務署側は企業から提出された支払調書をもとに、多額の報酬を得ているであろうプログラマーが確定申告をしているかどうか、また計上された売り上げが妥当かどうかをチェックしているのだろう。そこで、申告漏れが著しいプログラマーに税務調査が入ると考えるのが自然の流れだ。
個人でビジネスを行っている人たちは、源泉徴収されて給与が支払われる会社員に比べて、申告しなくても足が付きにくいと考えているのかもしれないが、当局はさまざまな情報を取得できる調査網を持っている。
新分野の調査を強化
プログラマーのように個人でビジネスを行う人が増えたことを背景に、暗号資産(仮想通貨)取引、ネット広告(アフィリエイトなど)、ネットオークションなど、新たな経済活動の分野の調査を強化する方針を掲げている。
従来の国税庁の資料では、新たな経済活動の分野を「インターネット取引を中心」と表現していたが、最近は「シェアリングエコノミー等の新分野の経済活動」と変化している。これまでのインターネット取引と一くくりにはせず、より幅広い経済活動について調査を行っているのだ。
これらの新しい業種や経済活動分野での税務調査件数は20事務年度、1071件とコロナ禍で前年度比42.9%も減ったにもかかわらず、1件当たりの申告漏れ所得額は1872万円と48.1%も増加している。このことから、当局が重点的に調査していることがうかがえる。
(李顕史、李総合会計事務所公認会計士・税理士)
週刊エコノミスト2022年12月6日号掲載
税務調査 所得税 申告漏れ1位の業種にプログラマー登場のワケ=李顕史