経済・企業 日本経済総予測2023
星野佳路・星野リゾート代表「インバウンド完全復活は2024年以降」
2023年の観光市場はどうなるのか。星野リゾートの星野佳路代表に聞いた。(取材・構成=稲留正英・編集部)
── 10月11日に新型コロナの水際対策が撤廃された。コロナ禍の総括は。
■当社の施設を①温泉地、②都市周辺の観光地、③飛行機で行く観光地、④都市部の観光地──の四つに分け、2020年から直近の水際対策撤廃前までの状況を分析してみた。①は温泉旅館「界」を全国で22施設展開しているが、コロナ前の19年に比べ、大半の施設で稼働率も客室平均単価も上がっている。②の都市周辺の施設も稼働率は19年レベルまで戻ってはいないが、単価が上昇し、業績は良かった。③も、稼働率は温泉地に比べ低いが、単価を上げることができた。④は東京の施設が典型例だが、インバウンド(訪日外国人客)が戻らない中、マイクロツーリズム(近隣への宿泊や日帰り観光)が都市には効きにくく、稼働率も客室平均単価も戻らなかった。
しかしながら、全体としてはインバウンド需要約4.8兆円の喪失を、国内需要で補うことができたのではないか。日本の統計では、日本国内で支払っている海外旅行代金は1.2兆円だが、私の肌感覚では、海外旅行の総消費額は予想以上に大きく、5兆〜6兆円ぐらいあったと思っている。ハワイでおいしいワインを飲むなど、日本人が海外で消費している金額は統計に入ってこないためだ。
都市部の予約が回復
── 10月11日から全国旅行支援も始まった。今後の観光業の回復は。
■水際対策がなくなったことで、日本人が海外旅行に戻り、この2年半、客室平均単価を上げていた温泉地や首都圏周辺の観光地には少し下げ圧力がかかると見ている。一方で、インバウンドが戻ることで、都市部の施設にはプラスになる。実際に東京にある星野リゾートの施設では10月の水際対策撤廃以降、急速に予約が戻ってきている。
また、日本人の海外旅行については円安の影響で戻りは遅くなる一方で、インバウンドにとってはこの円安がプラスに働く。中国のゼロコロナ政策の影響で、7割を占めていた東アジアからの戻りは遅くなり、19年の4.8兆円に回復してくるのは24年以降になるだろう。しかし、19年までのインバウンドは東アジア依存率が高過ぎたので、この機会は欧米豪にしっかりとマーケティングする良いチャンスになり、その活動は長期的に日本の観光産業にはプラスになるだろう。
── 全国旅行支援の評価は。
■旅行需要の平準化策は評価している。平日のクーポン券の金額を土日よりも上げたほか、年末年始の繁忙期を補助の対象期間から外したことも大きかった。また飛行機など交通を伴う遠くの観光地について、補助金額を上げたことも良かった。
── 日本の旅行業界の課題は。
■日本の観光は28兆円と国内で5番目に大きな産業で、規模としてはもう十分ある。真の問題は、観光産業の生産性と収益性が低いことだ。需要がゴールデンウイーク、お盆、年末年始と土日の100日に集中しているため年間での収益力が弱い。265日は供給過多になるので非正規雇用が7割になる。
最も効果的な策は、日本人の休み方改革だ。世界の観光先進国では大型連休を地域ごとにずらして取得して需要を分散し、混雑を避け、価格低下にもつなげている。日本もゴールデンウイークや3連休などを地域ごとにずらして取得することで、観光産業の生産性は高まり、同時に旅行者にとっても大きなメリットになる。
── インバウンド集客の平準化も訴えている。
■例えば、オーストラリアの夏休みは日本の正月明けから始まって、2月まで。世界の大型連休は分散しているため、さまざまな国から来てもらう努力をすると、需要を平準化できる可能性は上がる。
日本はコロナ前の19年では、中国、香港、韓国、台湾のアジア4地域で70%を超える集客をしていた。特に大阪や九州はアジアへの依存度が高すぎる。リスク分散の観点でも良い状態ではない。日本のインバウンド市場にとって、欧米豪は世界でのブランディングのためにも非常に重要で、今の円安をきっかけにして、長期的に欧米豪からの集客に注力すべきだ。
自然観光の強化を
また、19年のインバウンドはトップ5都道府県での宿泊者が6割を占めていた。しかも、東京、京都、大阪という大都市中心で、一部に訪問客集中の問題も起こっていた。今後19年の3200万人を超えて、国が目標としている6000万人を目指すのであれば、地方へのインバウンド集客を伸ばしていくことが必要となる。世界の旅行産業の2大コンテンツは文化観光と自然観光だが、日本は文化観光が強いために大都市に訪問が集中し、地方との格差が拡大していた。23年からは自然観光のコンテンツとマーケティングを強化して、地方訪問を目的とするインバウンドを増やす努力をすべきだ。
■人物略歴
ほしの・よしはる
1960年長野県出身。83年慶応義塾大学経済学部卒業。米コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。91年星野温泉社長(現星野リゾート代表)に就任、現在に至る。
週刊エコノミスト2022年12月20日号掲載
インタビュー 星野佳路・星野リゾート代表 インバウンド完全復活は2024年以降