EV販売鈍化の予想 日産リーフは100万円超値上げか 池田直渡
急激に伸びた電気自動車(EV)の販売は、価格高騰で鈍化する可能性がある。
2022年はEVの国内販売台数が大きく増えた年だった。電気料金比較サイトを運営するエネチェンジ(東京都中央区)のデータによると、EVの国内販売台数は21年、約2.1万台に過ぎず、軽自動車を含む乗用車全体に占めるシェアは0.6%だった。ところが22年6月以降、販売台数が急増した。日産自動車と三菱自動車がそれぞれ軽自動車EVの「サクラ」と「eKクロスEV」を発売した影響だ。1~10月の販売台数は約4.3万台、販売シェアは1.5%に急増した。
23年はどうか。EVの販売台数は増えるだろうが、一転して増加が鈍化する可能性が高い。理由は大きく分けて二つある。一つ目は、EVに搭載するバッテリー(蓄電池)や半導体が不足していることだ。現に日産は22年秋、EV「リーフ」と「サクラ」の注文受け付けを停止せざるを得なくなった。
全世界のバッテリー生産能力は22年、充電電力容量換算で300ギガワット時(=3億キロワット時)に満たない水準だろう。EV1台に搭載するバッテリーの容量が40キロワット時として、年750万台分に相当する。EVとプラグインハイブリッド車の販売台数は21年、全世界で約660万台に上っており、生産を増やす余地はそう大きくない。
21年ごろから、世界各地でバッテリー工場の建設計画が発表されているが、原料となるリチウムの鉱山開発には10年単位の時間がかかる。すでにリチウムの世界的な奪い合いが起きており、バッテリー価格は必然的に上がっている。
小型エンジン車から撤退
二つ目はEVの販売価格がまだ、高いことだ。「リーフ」の場合、最も安いグレードで約370万円もする。しかも日産は23年1月、注文受け付けを再開する際、「リーフ」を最大約103万円値上げする。専門サイト「MAGX NEWS」が12月2日、報じた。筆者が問い合わせた日産広報部は否定しなかった。自治体はEV購入者に補助金を出しているが、予算には限界がある。販売台数が増え続ければ、補助金を減額するか、もらえない人が続出するだろう。
EVをもてはやす世論の影響は思いがけない形で消費者に及んでいる。バッテリーの価格が急騰する中、自動車メーカーはEVの販売価格をさらに上げるわけにはいかない。するとEVの利益率は大きく下がり、エンジン車の利益を増やして補塡(ほてん)することになる。
実際、自動車メーカーは利益率が低い「Bセグメント」という小型乗用車から撤退し始めている。例えば、マツダは22年春、ヨーロッパで販売する「マツダ2」をトヨタ自動車から調達するOEM(相手先ブランドによる受託生産)に切り替えた。国内販売分についても23年中にOEMに替えるのではないか。また、日産は22年8月、「マーチ」の国内市場向けの生産を終了した。国内で販売されるBセグメントはトヨタ「ヤリス」、ホンダ「フィット」、スズキ「スイフト」などに減ってしまう。
結局、EVの生産が増えない一方で、値ごろな小型車の選択肢が減る。消費者は「EVブーム」のツケを払うことになりそうだ。
(池田直渡・自動車ジャーナリスト)
週刊エコノミスト2022年12月20日号掲載
岐路に立つEV 国内販売は一転、鈍化も 電池や半導体の不足で=池田直渡